インドネシア人のやる気を引き出す給与体系づくり7つの手順

インドネシア進出企業から、「従業員から給与の不満」や「やる気が見られない」といった声をよく耳にする。インドネシアの労働法では労働者が異常に保護されているし、最低賃金も毎年2桁台であがっている。しかし、賃金上昇にとともに作業効率や生産性が上がっていないのが現状だ。

できるだけ人件費を抑えながら会社の生産性を上げるためには、従業員のモチベーションアップのための給与体系が必要だ。今回はインドネシア人のやる気を引き出すための具体的な給与の決め方についてご紹介する。さらに、現状の給与体系から移行するための手順も加えておいたので、参考にしてほしい。

1.給与決定で一番大事な退職金
2.インドネシアの給与構成
3.労働者保護が世界一と言われる労働法
4.地域によって異なる最低賃金
5.給与体系構築のための7つの手順
6.給与体系変更手順

1.給与決定で一番大事な退職金

退職金

インドネシア人を正社員として雇用する場合、一番重要なのは雇用契約終了時に支払う退職金だ。退職金には、

・退職手当(Uang Pesangon)
・勤続功労金(Uang Pengharugaan Masakerja)
・損失補償金 (Uang Penggantian Hak yang Seharusnya Diterima)

の3つがあり、固定給をベースに計算されて数十ヶ月分以上も支払うことが労働法で定めらているからだ。

特に契約終了時には、労働者を保護するように労働事務所・労働紛争終了委員会・警察・裁判所・社員・労働組合・マスコミのすべてが動く。会社側から一方的な懲戒解雇はありえない。

インドネシアの労働組合は絶大なるパワーを持っており、元従業員が雇用終了時に「不当な解雇だ」と感じて、全国組織の労働組合に訴えると、まるで暴力団が襲ってくるような攻撃を受ける。

また、従業員が「盗みをする」などの会社規則を違反して裁判になったとしても、裁判期間中は給与を払い続けなければならない。

雇用終了時には押し付けではなく、十分な話し合いをし、会社側、従業員、労働組合の3者が納得することが重要になる。

労働法ので決められているが、最終的に議論されるのが退職金の金額だ。

雇用終了には、自己都合と会社都合に分かれる。労働法で規定されている退職金関連の支払いは以下のようになっている。自己都合であっても、実質的には退職金を支払い、会社都合の場合には、さらに2倍以上の退職金を払わなければならない。
法定退職金
[法定退職金のグラフ]

・損失補償金の内容は、以下。

事項 解説
a 年次休暇 まだ労働者が取っておらず、まだ無効になっていない年次休 暇を賃金に換算して損失補償金に算入するもので、有給休暇 を会社が買い取るかたちとなる。
b 帰郷旅費 労働者とその家族が、労働者が採用された場所に帰る費用。
c 住宅手当 及び 医療治療費 住宅手当、医療治療費の補償として、退職手当又は勤続功労 金を受け取る条件を満たす労働者は、退職手当又は勤続功労 金の 15%の額を受け取ることができる。
d その他 労働契約、就業規則又は労働協約に定められるその他の事項
[受け取る権利がある損失補償金(労働法第156条第4項)]

2.インドネシアの給与構成

インドネシアにおける給与構成は以下のとうり。
インドネシアの給与構成
[インドネシアの給与構成]

給与構成の中で一番大切なのは、固定給の設定だ。固定給が最低賃金、退職金、時間外手当、レバラン手当などの計算の基準額になるからだ。雇用する会社側は、人件費を抑えるためにできるだけ固定給を下げたいが、労働法で定められている固定給は、最低賃金以上で、月額給与の75%以上なくてはならない。つまり、変動給の合計が給与の25%以下に調整が必要だ。

上記の「特別手当」は任意なので、就業規則や労働協約で規定すること。月額給与の「特別手当」は、断食期間中などの食事手当がある。ボーナスの規定はないが、レバラン手当は1ヶ月分以上の支払いが必要だ。

参考として、会社負担金として「食事支給」「通勤バス代」も入れておいた。社会保障会社負担金は、2014年1月から施行された社会保障制度(健康保険+社会保障)があり、社会保障開発機関(BPJS)に固定給の4.5%を支払う必要がある。(比率は変更の可能性あり)

3.労働者保護が世界一と言われる労働法

インドネシアの労働法は2003年にメガワティ政権時に制定された労働法(労働に関するインドネシア法律2003年第13号)の18章193条が基本となり、その後の改定などの労働相令、大統領令、州、県が定めた膨大な手順などが存在する。
・労働に関するインドネシア共和国法律2003年第13号
Undang-Undang Republik Indonesia Nomor13 Tahun 2003 Tentang Ketenagakerjaan

ポイントは以下となる。

1.雇用形態

正社員と契約社員からなる。契約社員は最長3年で雇用期間を終了できるが、正社員においては解雇させることは非常に難しいし、退職金も膨大になる。

2.人材派遣

派遣労働者が許されている業務は、以下の5つのみ
・クリーニングサービス業
・労働者 用のケータリング業
・警備員業
・鉱業・石油業の補助的サービス業
・労働者用の輸送サービス 業

3.雇用条件

・労働時間の上限は、週40時間
・時間外労働の上限は、1日3時間、週14時間
・時間外時給は、月額賃金の1/173、最初の1時間1.5倍、2時間目以降2倍。
・時間外時給(休日)は、月額賃金の2~4倍。

4.有給休暇・傷病休暇

・12ヶ月連続勤務した場合、最低12日年次有給休暇
・医師の診断書があれば、傷病休暇が認められ、休暇取得日数に制限はない
・傷病休暇の最初の4ヶ月は月額賃金の100%、次4ヶ月75%、次4ヶ月50%、それ以降25%(解雇まで)
・12ヶ月の傷病でも解雇できない。解雇の場合でも会社都合となる。

5.賃金・手当

・毎年最低賃金が変更される
・州・県・市によって変わる。一部業種によっても変わるので注意。
・変動手当は給与の25%を超えてはならない
・レバラン手当は1ヶ月分を支給

6.雇用契約書・就業規則

・インドネシア語で書かれていること
・就業規則を作成し、労働局の承認を得る
・就業規則は2年ごとに更新
・就業規則は労働者の代表により合意されたもの

7.解雇

・退職手当は上限9ヶ月分(勤続8年以上)
・勤続功労金は勤続年数に応じ2~10ヶ月分
・権利補償金を支払う
・自主退職は権利補償金の支払い義務あり
・組織再編成等(会社都合)の場合は、退職金は2倍

・犯罪となるうる重大な不正行為→裁判で有罪→権利補償金を支払う(裁判中は給与を支払う)
・雇用契約違反・就業規則違反→警告書(3回)→退職金・勤続功労金・権利補償金を支払う
・5日連続欠勤→警告書→権利補償金を支払う
・会社の閉鎖や倒産は、退職金2倍、勤続功労金・権利保障金を支払う

8.労働紛争

・労働者は労働紛争解決機関に異議を申し立てることができる。→解決しない場合、労働裁判所に訴訟

9.宗教的事情

・イスラム教徒への配慮が必要
・お祈り十分な時間と機会を与える
・金曜日のお昼にはモスクに行くために長めの休み時間

4.地域によって異なる最低賃金表

日系企業が多くあるジャカルタと西ジャワ州の2015年度の最低賃金は以下。
(注:業種によって最低賃金が異なる州があるので、最新情報を入手してすること)

インドネシア名 日本語名 2014最低賃金(Rp) 2015最低賃金(Rp) 上昇金額(Rp)
DKI Jakarta ジャカルタ特別自治州 2,400,000 2,700,000 300,000
Kabupaten Garut ガルット県 1,085,000 1,250,000 165,000
Kabupaten Tasikmalaya タシクマラヤ県 1,279,329 1,435,000 155,671
Kota Tasikmalaya タシクマラヤ市 1,237,000 1,450,000 213,000
Kabupaten Ciamis チアミス県 1,040,928 1,131,862 90,934
Kota Banjar バンジャル市 1,025,000 1,168,000 143,000
Kabupaten Pangandaran プガンダラン県 1,040,928 1,165,000 124,072
Kabupaten Majalengka マジャルンカ県 1,000,000 1,245,000 245,000
Kota Cirebon チレボン市 1,226,500 1,415,000 188,500
Kabupaten Cirebon チレボン県 1,212,750 1,400,000 187,250
Kabupaten Indramayu インドラマユ県 1,276,320 1,465,000 188,680
Kabupaten Kuningan クニンガン県 1,002,000 1,206,000 204,000
Kota Bandung バンドン市 2,000,000 2,310,000 310,000
Kabupaten Bandung バンドン県 1,735,000 2,001,195 266,195
Kabupaten Bandung Barat 西バンドン県 1,738,476 2,004,637 266,161
Kabupaten Sumedang スメダン県 1,735,473 2,001,195 265,722
Kota Cimahi チマヒ市 1,569,353 2,001,200 431,847
Kota Depok デポック市 2,397,000 2,705,000 308,000
Kabupaten Bogor ボゴール県 2,242,240 2,590,000 347,760
Kota Bogor ボゴール市 2,352,350 2,658,155 305,805
Kabupaten Sukabumi スカブミ県 1,565,922 1,940,000 374,078
Kota Sukabumi スカブミ市 1,350,000 1,572,000 222,000
Kabupaten Cianjur チアンジュール県 1,500,000 1,600,000 100,000
Kota Bekasi ブカシ市 2,441,954 2,954,031 512,077
Kabupaten Bekasi ブカシ県 2,447,445 2,840,000 392,555
Kabupaten Karawang カラワン県 2,447,450 2,957,450 510,000
Kabupaten Purwakarta プルワカルタ県 2,100,000 2,600,000 500,000
Kabupaten Subang スバン県 1,577,959 1,900,000 322,041
[ジャカルタ周辺の最低賃金表(2014年と2015年の比較)]

5.給与体系構築のための7つの手順

インドネシアに日本で使っている給与設定と同じ方式を使うことはできない。最低賃金が毎年30%前後も上がるからだ。最低賃金が上がるとリーダーや管理職の賃金も上げざるを得ない。

毎年のように労働法の改正や州・県の条例の変更があるので給与を決める際には法規の確認が必要になる。

私がオススメする給与設定手順は以下のとうり。
インドネシア給与設定手順
[インドネシア給与設定手順]

1.労働法・最低賃金調査

労働法の改正や州・県・市などの法令が毎年のように変更になるので、まずは法規を確認をしておく。基本なる労働法は原本及び日本語訳を入手しておく。

最低賃金の変更は毎年11月中旬ごろに発表になり、1月より適応される。一部の地域においては次の年までずれ込んだ場合、1月にさかのぼって支給することになる。新しく工業団地ができたところは、最低賃金の上昇率は高くなる傾向だ。一部地域によっては、業種別最低賃金があるので注意することだ。

2.就業規則・労働協約作成承認

就業規則は2年に一度は更新する必要がある。労働時間の規定や解雇などの規定は、地域の状況に応じて更新することだ。そして労働者の代表や労働組合と調整し、決定する。労働局の承認が必要となるので、承認に際には労働局の意見も取り入れることも大事だ。労働局とつながっていることが、労使問題になった時に対処しやすい。

3.雇用契約書

個別の雇用契約書も毎年見直すことをオススメする。これらも従業員の代表者や労働組合と調整が必要だし、労働局の承認も必要となる。

4.給与体系作成

変動給である、時間外手当、シフト手当、家族手当、皆勤手当については、就業規則に記載しておけばよい。大事なのは固定給だ。以下オススメする固定給のサンプルだ。固定給については、基本給、職能手当、職務手当を合計にする方式をとっている。毎年最低賃金を基準にある割合で決めるている。

以下にサンプル例として出す。

Ⅰ等級
一般職
Ⅱ等級
担当職
Ⅲ等級
リーダー職
Ⅳ等級
業務管理職
Ⅴ等級
部門管理職
Ⅵ等級
経営管理職
等級差 1 1.25 1.55 1.92 2.8 3.5
ピッチ1(10年まで) 50,000 57,500 65,000 70,000 85,000 110,000
ピッチ2(11年目以降) 25,000 28,750 32,500 35,000
1号 2,954,100 3,692,625 4,578,855 5,671,872 8,271,480 10,339,350
2号 3,004,100 3,750,125 4,643,855 5,741,872 8,356,480 10,449,350
3号 3,054,100 3,807,625 4,708,855 5,811,872 8,441,480 10,559,350
4号 3,104,100 3,865,125 4,773,855 5,881,872 8,526,480 10,669,350
5号 3,154,100 3,922,625 4,838,855 5,951,872 8,611,480 10,779,350
6号 3,204,100 3,980,125 4,903,855 6,021,872 8,696,480 10,889,350
7号 3,254,100 4,037,625 4,968,855 6,091,872 8,781,480 10,999,350
8号 3,304,100 4,095,125 5,033,855 6,161,872 8,866,480 11,109,350
9号 3,354,100 4,152,625 5,098,855 6,231,872 8,951,480 11,219,350
10号 3,404,100 4,210,125 5,163,855 6,301,872 9,036,480 11,329,350
11号 3,429,100 4,238,875 5,196,355 6,336,872 9,121,480 11,439,350
12号 3,454,100 4,267,625 5,228,855 6,371,872 9,206,480 11,549,350
13号 3,479,100 4,296,375 5,261,355 6,406,872 9,291,480 11,659,350
14号 3,504,100 4,325,125 5,293,855 6,441,872 9,376,480 11,769,350
15号 3,529,100 4,353,875 5,326,355 6,476,872 9,461,480 11,879,350
16号 3,554,100 4,382,625 5,358,855 6,511,872 9,546,480 11,989,350
17号 3,579,100 4,411,375 5,391,355 6,546,872 9,631,480 12,099,350
18号 3,604,100 4,440,125 5,423,855 6,581,872 9,716,480 12,209,350
19号 3,629,100 4,468,875 5,456,355 6,616,872 9,801,480 12,319,350
20号 3,654,100 4,497,625 5,488,855 6,651,872 9,886,480 12,429,350
[等級別基本給表] 2015年ブカシ県最低賃金 Rp2,954,100(赤色表示)を基準にした。

給与体系を設定するための基本的な考え方は以下のとおり。

・給与体系を作る

大企業では給与体系はしっかり決まっているが、中小企業の場合に給与体系が決まっていないことがある。インドネシアにおいて、給与体系がないことは、従業員の不満が増大し、ストライキなどの労働争議になりやすい。

まずは、給与体系が存在しており、全従業員に公表し、きちんと説明できるようにしておかなければならない。

・できるだけシンプルにする

インドネシアの従業員全員が理解できるようにできるだけシンプルにすることだ。そのためには、変わるものと変わらないものを決めておく。上記の例で言うと、決まっていることは、高校を卒業し、入社1年目はⅠ等級の1号俸だ。これが、最低賃金になる。それ以外の役職については個別に決め、Ⅰ号俸からスタートする。

変わるものは、等級別の金額だ。この表をみればだれでも基本給がわかるし、上の等級にあがればどのくらい給料があがるかも理解できる。

・年功序列制度

会社に長く勤めている人は会社に貢献していると考える。ただし、10年を超えても評価が悪く、上の等級に移れない人は毎年の昇級額は少なくなる。

・人事評価は相対評価

相対評価することで、やる気が出てきます。相対評価はS、A、B、C、Dの5段階評価にする。
・S評価:5%
・A評価:20%
・B評価:55%
・C評価:15%
・D評価:5%

S評価であれば2号俸上がれる。例えば、Ⅰ等級・1号俸の従業員がSまたはA評価の場合、次の年はⅠ等級の3号俸になる。3年連続で3回SまたはA評価であれば、4年目はⅡ等級に上がることができる。さらに、評価はレバラン手当や賞与の計算のもとなる。

評価には、ポイントカードの点数とカルト・テレマカシ(ありがとうカード)の受け取った枚数も含まれる。ポイントカードは、掃除、勉強会、行事などに参加するとスタンプがもらえる制度だ。

カルト・テレマカシ(ありがとうカード)は、誰が誰にあげてもよいし、誰からもらってもよい。評価は、より多くカードをもらった人になる。

・評価が悪い場合は、等級・号俸とも変わらない

大きなミスや警告書の発行があった場合は昨年と同じ等級・号俸になる。インドネシアでは降格扱いをしてもよいが、給料を下げることはできない。インドネシア従業員の常識としては、「給料は毎年上がるべきもの」なのだ。

・最低賃金が決定したら、基本給表を更新する

基本給表のベースが最低賃金なので、最低賃金が決定されれば自動的に給与体系の原案が出来上がる。この原案をもとに給与改善委員会で微調整していけばよいので、複雑な計算は無用だ。

・時間外手当計算

労働法に基づき計算する。

就業日の時間外手当:
1時間目→固定給の1/173の1.5倍
2時間目以降→固定給の1/173の2倍

休日の時間外手当:
7時間まで→固定給の1/173の2倍
8時間目→3倍
9時間目以降→4倍

・シフト手当

2シフト、3シフトの場合の夜のシフトには、シフト手当を支給する。
任意の手当だが、就業規則に記入しておく。

・家族手当

同居する2等身に限り、人数に応じて支給。毎年調査をする。身分証明書のコピーの提出を義務づける。婚姻・出産などで変更がある場合には届け出するように義務づける。毎年調査を行うことで、従業員のコミニュケーションをを深める目的だ。ウソの報告をした場合の罰則規定も就業規則に記入しておく。

・皆勤手当

出勤率を上げるための方法の一つ。1ヶ月間、有給休暇を消化せず、病気による欠勤もない従業員に支給する。従業員のモチベーションアップにつながる。経験上100人に数人程度しかいない。年間を通して皆勤した従業員は表彰をする。就業規則に記入しておく。

・結婚・出産祝金

就業規則に記載する。一般的にはRp100,000〜Rp200,000が相場。

・災害見舞金

洪水などの水害、地震、火事による消失において、見舞金を決めておく。状況の確認のために写真などの提出を義務づける。現在居住している場所に限定し、水害は床上浸水以上、地震は半壊以上、火事は半焼以上にする。大規模水害の場合には、特別休暇を設けても良い。

・死亡慶弔金

従業員が死亡した場合の家族に支給する。退職金の支給もあるので気持ち程度でよい。

・レバラン手当

固定給の1ヶ月以上を支給する。ボーナスの意味もあるので、1年間の相対評価により上乗せする。支給金額については会社の業績によるので、必ず従業員に業績を報告をし、原資を示す。相対評価で、S、A、評価者には多く支給し、できるだけ差をつけると、次の1年間のモチベーションがあがる。

5.給与体系勉強会

従業員が不安に思うのは、”自分の給与がどう決められているか”ということが分からないからだ。法規上にはこのような規定があり、会社ではどういうシステムで、評価はどうやって、どのような計算をしている、ということを従業員は知らない。

知っていることは、最低賃金と友人などがもらっている給与の額だけだ。友人と比べて給料が安いと不満が大きくなる。

最初にやることは、従業員に給与のシステムと計算方法を教えることだ。

勉強会を開き、自分の給料を計算してみる。そして、評価が良い場合には、1年後、3年後、5年後にもらえる給料はこのくらいになる という計算を自分でやることだ。評価が悪かった場合も計算し、その差を比較すると非常に大きな差になっていることが理解できるのだ。

将来の自分の給与を予想することで、やる気を引き出すことが目的だ。

勉強会では給与の計算だけではなく、人生の計画も一緒考えていくとかなり現実味を帯びてくる。例えば、結婚・出産・子供の学校などの人生で起こりうることを、年表形式に書き込んでいくと、お金が必要な時期、出費がかさむ時期が見えてくる。

最低賃金が毎年上がるので、等級別基本給表は予想されたものでよい。
例えば以下のようにRp400,000アップしたと想定すると計算はしやすくなる。

Ⅰ等級
一般職
Ⅱ等級
担当職
Ⅲ等級
リーダー職
Ⅳ等級
業務管理職
Ⅴ等級
部門管理職
Ⅵ等級
経営管理職
等級差 1 1.25 1.55 1.92 2.8 3.5
ピッチ1(10年まで) 50,000 57,500 65,000 70,000 85,000 110,000
ピッチ2(11年目以降) 25,000 28,750 32,500 35,000
1号 3,354,100 4,192,625 5,198,855 6,439,872 9,391,480 11,739,350
2号 3,404,100 4,250,125 5,263,855 6,509,872 9,476,480 11,849,350
3号 3,454,100 4,307,625 5,328,855 6,579,872 9,561,480 11,959,350
4号 3,504,100 4,365,125 5,393,855 6,649,872 9,646,480 12,069,350
5号 3,554,100 4,422,625 5,458,855 6,719,872 9,731,480 12,179,350
6号 3,604,100 4,480,125 5,523,855 6,789,872 9,816,480 12,289,350
7号 3,654,100 4,537,625 5,588,855 6,859,872 9,901,480 12,399,350
8号 3,704,100 4,595,125 5,653,855 6,929,872 9,986,480 12,509,350
9号 3,754,100 4,652,625 5,718,855 6,999,872 10,071,480 12,619,350
10号 3,804,100 4,710,125 5,783,855 7,069,872 10,156,480 12,729,350
11号 3,829,100 4,738,875 5,816,355 7,104,872 10,241,480 12,839,350
12号 3,854,100 4,767,625 5,848,855 7,139,872 10,326,480 12,949,350
13号 3,879,100 4,796,375 5,881,355 7,174,872 10,411,480 13,059,350
14号 3,904,100 4,825,125 5,913,855 7,209,872 10,496,480 13,169,350
15号 3,929,100 4,853,875 5,946,355 7,244,872 10,581,480 13,279,350
16号 3,954,100 4,882,625 5,978,855 7,279,872 10,666,480 13,389,350
17号 3,979,100 4,911,375 6,011,355 7,314,872 10,751,480 13,499,350
18号 4,004,100 4,940,125 6,043,855 7,349,872 10,836,480 13,609,350
19号 4,029,100 4,968,875 6,076,355 7,384,872 10,921,480 13,719,350
20号 4,054,100 4,997,625 6,108,855 7,419,872 11,006,480 13,829,350
[等級別基本給表(2016)]

2015年ブカシ県最低賃金 Rp2,954,100からRp400,000がUPして、Rp3,354,100(赤色表示)とするとした。

6.昇級個人面談

従業員全員に平等に評価をするために、評価シートをもとに評価面談を行う。上司とは毎月行い評価の確認をしておく。
現地法人の社長やマネージャーとは年2回行う。面談は、上司と部下と一緒に、10分間で、5分は本人が半期の報告と自己評価を説明する。その後社長が、評価を確認し、アドバイスをする。

社長(マネージャー)は評価シートを見ながら、各項目の点数を読み上げてそれぞれに返事をもらい、最終評価の判定を確認して、納得してもらう。つまり、評価を自分で認めさせることが大事なのだ。

どうすれば評価が上がるかをアドバイスする。例えば、「スタンプシートの数と、カルト・テレマカシの数が少ないので、もっと周りの人に対して気を配りやってあげること」などだ。できるだけ具体的な数字を出してアドバイスをしていく。

数字で表現しないと、社員は何をどうした良いかがわからないからだ。多くの従業員は「自分は頑張っている」と表現する。どのくらい頑張っているかは、相対的に、数字で表現することで、理解できるようになるのだ。

この面談の大きな目的は、評価を下すことではなく、従業員から「私のことを思ってくれている」というアットホームな雰囲気を感じてもらうためだ。評価が下がったのは、何かプライベートで問題があったのか、この会社で仕事をする気持ちがなくなったのか、上司との関係がうまくいかなくなったのか、といったことがわかってくるからだ。そして、社長の価値観を従業員に直接伝える場なのだ。

仕事を熱心にやらない人は態度でわかってくる。問題を起こした従業員・やる気感じない従業員には、退職を促したり、自分の才能をいかした違う人生の道もあることを話すと、労働問題には絶対に発展しない。

もちろん、従業員もすべて本音は言わないが、声のトーンや顔の表情で感じられるようになる。

7.給与体系改善委員会

どんなシステムにしても、給与については100%の満足を得ることはできない。かならず不満を言ってくる人がいる。

それに対処するには不満がある人を集めて、給与体系改善委員会を開催することだ。委員会には評価が良かった人も参加させる。Ⅰ〜Ⅵまでの各等級から、不満がある人、評価が良かった人の両方を集めて協議をする。

不満がある人には、改善案や代替案を出してもらう。すると、評価が良かった人が反論する。この議論が大事なのだ。社長やマネージャークラスはじっと黙って聞いておき、給与システムの考え方を後半で説明する。

従業員に議論させることによって、毎年給与システムの精度が上がり、より満足度の高いシステムが出来上がる。
不満がある人にとっては、どこを頑張ればよいのか、どこを改善すればよいのかのポイントがわかり、仕事を頑張るようになる。

給与の不満は、おおいに受け入れるべきで、押し付けではないことを強調するのがよい。

6.給与体系変更手順

もうすでに給与体系があり運用している場合に、給与体系を変えることには抵抗を感じる。変えようとする経営者側も受け入れる従業員側にも大きな変更は受け入れがたい。以下の手順に従って、数年をかけて変更することだ。

1.従業員の給与を調べる

従業員の給与を3年前までさかのぼって調査する。従業員の勤続年数、役職、部下の有無、手当の種類と額、その年の最低賃金を調べておく。仕事のレベルからみて、Ⅰ〜Ⅵ等級のうち、どの等級に入るかを調査しておく。管理職クラスに大きな差があったり、仕事の割合には給与が高すぎていたりということがわかってくる。

特に日本人と接触の多い通訳や秘書については、評価が高く、給与が異常にあがっている場合があるので、詳しく調べることだ。

2.給与体系の草案を作成

現在もらっている固定給については、業務手当や職能手当が妥当かどうかを調べ、全て6つの等級に振り分けるようにする。その他の手当については統合し、最小限の手当になるように調整する。

給与の草案を作成し、3年前から今年度までの各レベルの従業員の給与を計算してみる。80%以上の従業員が新給与体系に含まれるようにする。残りの20%については、数年をかけて臨時調整手当として別途支給し、前年度と同じ給与額にしておく。

そして、来年度の最低賃金を予想し、来年度の給与計算を新給与体系をもとに計算をし、確認しておき、食い違う点については倍率や係数を変えてみる。

ある程度給与体系が出来上がったら、給与改善委員会を開催し、説明する。今年の給与と来年予想される給与について説明し、「給与体系の変更によって給与は下がることはない」ことを強調する。

既得権については、今後の評価次第であることも伝える。

3.レバラン手当の評価を試行する

出来上がった給与体系で計算された固定給をベースに、賞与やレバラン手当を試行する。賞与については労働法による規定はないし、レバラン手当は固定給1ヶ月分以上であればよいからだ。試行することによって、従業員から広く問題点・改善点をあげてもらう。

4.給与体系委員会で決定する

賞与やレバラン手当で試行した時の改善点を協議し、給与体系改善委員会で修正し、従業員の代表や労働組合との承認を得る。評価項目についても決定する。

5.面談を実施

上司と部下の面談、社長との面談を実施する。評価シートをもとに、従業員一人ひとりの給与について説明する。廃止された手当、統合された手当など変更点を中心に説明し、評価項目についても説明する。

6.給与体系勉強会を開催

給与体系について全従業員に説明し、給与体系を理解してもらう。理解を深めるためには、1年後には自分の給与がどうなるのか、3年後は、5年後にはどのくらいの給与がもらえるのかを自分で計算することだ。自分の給与が見えてくると、「どうしたら給料が上がるか」を考えて、よい評価をもらおうと努力するからだ。

7.施行日を決定し、公表する

施行日は、最低賃金の発表後に再度勉強会、面談をして、納得していくこと。もし、前年度よりも給与が下がってしまった場合には臨時特別手当を支給することも準備しておくことだ。

8.施行

通常は新年度の1月1日より施行することが受け入れやすい。

まとめ

インドネシア従業員にとっての一番の関心ごとは、給与だ。多くの従業員にとって不満が大きくなるのは、給与の決め方を知らないからだ。

会社としては給与体系と計算方法を従業員に正しく教えることが必要なのだ。

教えて理解してもらうためには、できるだけシンプルにして、どうしたら給料が上がるかを、自分の将来の給与を計算させることで現実味がおびてくる。そして人事評価と給与が連動しており、評価が良ければ給料は上がり、悪ければ給料は上がらない。

単純だが、実際に等級別基本給表を使うことで、”掛け率”ではなく、”金額”で理解できるようになるのだ。

新しい給与体系を取り入れ、改善し、インドネシア人の従業員のモチベーションを向上させ、御社の生産性や効率を最低賃金の上昇以上に高めていくことを願っている。

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