インドネシア駐在で経験したから言える6つの従業員ストの防止方法

日系企業の多くが「我が社ではストライキは発生しない」と思い込んでいるが、非常に危険な考えだ。違法・合法にかかわらず、ストライキは明日起きるかもしれない。

一度ストライキが起こると、生産活動は中止され、納期を守れなくなり、取引先からの信用を失ってしまう。最終的にはインドネシアからの撤退という結果になってしまう。

私も赴任中に労働問題が発生した経験がある。幸運にも撤退は免れたが、完全に解決し、回復するまでには約3年以上の時間を必要とした。その経験から労働問題こそがインドネシアビジネスの最重要課題だと断言できる。

今回はストライキを未然に防ぎ、労働問題に発展させない方法について詳しく説明する。インドネシアに進出する企業や進出予定の企業には必ず読んでいただき、実行してほしい。

1.怖い存在の労働組合
2.なぜストライキをするのか
3.最も効果的なストライキを防止する方法
4.給与体系を公表する
5.小さな要求をかなえてあげる
6.優秀な人材ほど危険

1.怖い存在の労働組合

怖い労働組合
[出典:www.tribunnews.com]

インドネシアには全国組織の労働組合が存在しているが、いずれもかなり怖い存在だ。
インドネシアの代表的な全国組織の労働組合は以下。

・全インドネシア労働組合総連合[KSPSI: Konfederasi Serikat Pekerja Seluruh Indonesia] (http://kspsi.com)

・インドネシア労働組合連合[KSPI: Konfederasi Serikat Pekerja Indonesia] (http://www.kspi.or.id)

・全国労働組合総連合[KSPN: Konfederasi Serikat Pekerja Nasional] (http://www.kspn-ntuci.com)

・インドネシア石油天然ガス労働組合連合[KSPMI: Konfederasi Serikat Pekerja Migas Indonesia] (http://www.kspmi.or.id)

・インドネシア金属労働組合連合[FSPMI: Federasi serikat pekerja metal Indonesia] (http://fspmi.or.id)

・インドネシア労働者福祉連合[KSBSI: Konfiderasi Serikat Buruh Sejahtera Indonesia] (http://www.ksbsi.org)

労働者の代表が労働組合に訴えた場合、組合は法律の知識と会社との戦い方を労働者に伝授する。百戦錬磨のプロ集団だ。最初は社内の従業員にチラシなどを配って労働組合に入会するように勧誘し、組合員を増やしながら、「問題はすべて会社側にある」と扇動するのだ。

会社側の対応が不十分な場合には、ストライキをしたり、会社の前に血の気の多い組合員をバイクなどで終結させ、嫌がらせをする。

会社側の論理的な交渉はほとんど通じない。とことんまで労働者の要求が通るように仕向けるのだ。そのような状態になっては警察、労働局なども労働者側に味方になり、会社側は孤立してしまう。

2.なぜストライキをするのか

なぜストライキをするのか
[出典:entertainment.harianterbit.com]

日系企業に就職を希望するインドネシア人のほとんどが、安定した収入が出来ると信じて応募してくる。毎月決まった給料がもらえて、家族も含めた健康保険にも入ることができるからだ。韓国企業の一部では、給料が支払われなかったり、不当な扱いを受けることが頻繁に発生していることを知っているのだ。

最近では、残業が多くある日系企業への就職を反対する両親もいるが、少数派だ。

会社側が最低賃金や労働法を守っており、従業員が安定した給料と健康保険が受けられていれば基本的にはストライキは起こらない。ニュースなどで「給料が安い」ことを理由にストライキをしているのは、全国組織の労働組合だけだ。

それでも勤めている会社に対して、ストライキをする理由は2つしかない。

1.不当に解雇されたと感じた場合
2.会社が従業員のことを思っていないと感じた場合

1.不当に解雇されたと感じた場合

会社側としては労働法に従って、正当な手続きを踏んで解雇に至ったとしても、本人が「不当に解雇された」と感じてしまう場合がある。

解雇された従業員は労働組合に訴えると、全国組織の労働組合が動いてしまうのだ。解雇する場合には特に慎重に行わなければならない。基本となるのは、労働法、就業規則、雇用契約書だ。

業務態度や遅刻、不正行為が重なり解雇する場合には、感情的にならずに、警告書を規定どうりに発行したり、文書での連絡を規定された期間内に行うことだ。日本人が感情的になり、多くの人の前で怒ってしまったことがある場合、解雇された従業員は「不当」だと感じることがある。

さらに解雇された従業員だけではなく、現在就業している従業員も「いつか解雇されるかもしれない」という不安が大きくなってしまう。

労働法や就業規則に書かれている内容は、すべての従業員に平等にすべきだ。日本人の感覚として、優秀な人材や側近の従業員を”ひいき”にしてしまう傾向がある。優秀な人材に期待することはよいが、遅刻や不正行為に対しては平等に警告書などの文書を発行し、納得してもらうことだ。

感情的に怒るだけで、警告書を発行せずに解雇に至った場合には、労働組合や裁判所から「不当である」と判断されてしまう。

会社としては、現地の法律事務所と契約をし、労働法、就業規則、雇用契約書など書類を完璧にしておくことが基本になる。警告書などの運用面にも、温情を抱いたり、感情的にならずにシステムとして事務的に行うことだ。

2.従業員のことを思っていないと感じた場合

会社に対して、従業員の意見や提案が受け入れられない、または話す機会もないという場合に感じてしまう。

日系企業においては、一般の従業員は言葉の問題もあり、直接日本人に話しかけたり、提案することはほとんどない。提案などを上司に言っても、聞いてくれなかったり、自分の仕事が増えるので問題をもみ消したりしてしまう。

すると、現場の従業員の声が伝わらず、日本人の知らないところで”うわさ”が広がり、最後にはストライキになってしまう。従業員の提案といっても、「給料を大幅にあげろ」とかの大きな要求はほとんどない。後半で詳しく述べるが、「昼食がまずい」とか、「制服が破けたのに交換してくれない」といった小さな要求だ。

日本人がやることは、従業員の代表とだけ話しをするのではなく、現場の従業員と膝を交えて話しをする機会を作ることだ。一番有効なのは、1対1で話しを聞くことだ。できない場合には10人程度のグループに分けて話しを聞くことだ。要求に対して、すぐできることは実行し、できないことは、代替え案や将来的に計画に入れて実行することを約束することだ。

例えば、「昼食がまずい」という対策は、ケータリングサービスのコンペティションをして、従業員の投票で決める。制服の交換は、3cm以上破れた時、制服の変色が3cm四方以上ある場合には交換するといった、ルールを決めて実行することだ。

そういった小さな提案を受け入れることで、「会社は私たち従業員のことを思ってくれている」とは感じ、ストライキには発展しなくなるのだ。

何度も繰り返すが、給料や待遇だけがストライキの原因ではない。

3.最も効果的なストライキを防止する方法

ストライキ防止法

もっとも効果的だあると断言できるストライキ防止法は以下の4つだ。

1.1対1で、とことん話を聞く
2.従業員グループと話しを聞く機会を設ける
2.うわさ情報を入手(社内コミュニティーの把握、facebook,twitter,what’s up,line)
3.毎月やること(労働法関連・労働局・労働組合)

1.1対1で、とことん話を聞く

直属の部下や管理者とまず1対1で、3時間以上をかけて話しをすることだ。話す内容は、まずは家族のことだ。配偶者や子供、両親についてくわしく聞く。次には学歴や職歴、現在の状況。その後将来の夢や目標についてだ。特に借金についてはさらに突っ込んだ話しをしる。なぜ借金をしたのか、金額はどのくらいなのか、誰から借りているのか、返す予定はどうなっているのかなどだ。

(質問の詳細は、たった8つの指示で劇的に変わるインドネシア現場リーダー養成法(その1)を参照してほしい)

その後、会社についての不満や期待することなどを聞いていく。従業員の生活パターンや不安なことを聞くことで、考えていることがわかるようになる。

多くの従業員は、これほどくわしく自分の話しを聞いてもらったことはないので、「聞きいてあげる」という行為が信頼関係を築くことになるのだ。アドバイスをすることではなく、黙って聞いてあげることに意義があるのだ。

2.従業員グループと話す機会を設ける

部署ごとなどで、従業員10人ぐらいと話しをする機会を作る。家族の話から入り、会社に改善して欲しいところややって欲しいことを言ってもらう。やってみるとわかるが、従業員の要求は小さなことが多い。もちろんすぐできることは実行してあげることが大事だし、できないことはできない理由を説明する。

もう一つは、従業員の中での隠されたリーダーを探すことだ。役職ではないが、リーダー的な存在が必ずいる。その隠されたリーダーを探すことによって、労働組合とともに先導するかもしれないリーダーを探し出し、1対1で面談をして、会社側の味方につけておくことだ。そのリーダーの心をつかんでしまえば、大きなストライキには発展しない。

3.うわさ情報を入手

インドネシアでは携帯電話とSNSの普及によって、必ず社内のコミュニティーが複数存在する。facebook,twitter, what’s up, line, ブラックベリーメッセンジャーなどだ。ほとんどが、自分の写真を載せたり、芸能関係の話題、商品紹介のアフィリエイトなどだが、これらのSNSを把握しておくことも大事だ。うわさ情報は、ものすごい早さで従業員に伝わるからだ。

特に、労働問題が発生し、ストライキなどの提案があれば感化される人も多くなる。最低限、社内での写真撮影は禁止にしておく。社内には、製造工程などの機密情報がたくさんあるが、従業員にとっては背後に移る現場には関心を持っていないからだ。

4.毎月やること(労働法関連・労働局・労働組合への訪問)

ストライキが発生した場合を想定し、準備をしておくことも大事だ。労働法は改訂が頻繁行われるし、毎年最低賃金発表される。だから、毎月1回は労働法などの関連法規を確認しておくことだ。

ストライキが発生する前から、労働局や労働組合を毎月訪問し、担当者や役職者と話をしておき、顔を覚えてもらうことだ。訪問する理由は、法規に関する解釈はどうなのか?、もしこうなった場合にはどういう方法があるのか?、などなんでも良い。訪問する際には、日本からのお土産を持っていくとさらに良い。

労働局と労働組合とのパイプがあれば、多少の問題が起きても大きな問題には発展しないし、問題を沈静化する方向に動いてくれるからだ。

4.給与体系を公表する

給与体系を公表

従業員にとって、会社での最大の関心事は給与だ。その給与がどうやって計算されているのかを知らない従業員が多くいる。

まずは給与体系を公表すると決断することだ。そして、給与体系勉強会を開催し、理解してもらう。勉強会の中では、1年後や3年後の給与を計算し、予想してもらうことだ。給与の元になるのは、最低賃金と評価だ。良い評価の場合と悪い評価の場合にはどのくらい給与に差がでくるのかを、自分の給与で計算することによって、評価をあげようと努力するからだ。

もちろん、自社の給与体系が労働法に合致していることも説明する。給与体系を公表すると同時に、昇給や昇進などの評価基準も公表していくことも大事だ。

5.小さな要求をかなえる

小さな要求をかなえる

従業員の多くは給与だけが不満ではない。自分のことを思ってくれていることを実感したいのだ。そのために小さな要求に応えていくことだ。小さな要求としては以下のようなものがある。

・通勤

バスの品質、乗車場所、乗車時間、バイク置き場と管理

・共有設備

ロッカー(鍵、大きさ、場所)
お祈り場所(男女の区別、広さ、金曜日のモスクまでの移動方法、足洗い場)
食堂(食事がまずい、メニューが少ない、衛生的でない、水、お湯、コップ置き場、歯ブラシ置き場)
手洗い場(カランの数、水漏れ修理、洗面台の修理、清掃)
トイレ(女子トイレが少ない、汚物入れがない、紙がない、鍵が閉まらない)

・支給品

制服(支給が1着しかない、制服の交換条件、靴の交換条件、マスク、デザインがダサい、妊娠中の制服支給)
マスク、指サック、手袋などの支給がない

・事務用品

机、椅子の破損交換
棚、ファイル、事務用品の保管
コピー機の修理
ファックス機の修理
パソコンのチェック

・医務室の設置

可能な限り医務室を設置するか、近所に健康相談できる看護師を常駐しておくことだ。

・イベント

社内サークルの補助(サッカー、バレーボール、バトミントン、卓球など)
ピクニックの開催
創立記念パーティー

5.優秀な人材ほど危険

優秀な人ほど危険

日本人の傾向として、優秀だと感じている管理者や秘書、日本語できる通訳や技術者をどうしても”ひいき”してしまう。「将来において会社の核となり働いてもらいたい」「その人が退職したら自分の仕事が増えてしまう」といった理由だ。

ストライキを先導する人間は、優秀な人材が圧倒的に多い。従業員の悩みを聞き、気持ちを掴んで、コントロールするリーダー的能力が高いからだ。指導的立場を利用して、日本人赴任者が見ていないところで不正をする。

優秀な人材に対しては、評価を異常に高くしたり、遅刻などを繰り返しても口頭だけの指導で、警告書などの書面で指導連絡をしなかったりする。彼らは、日本人から”ひいき”にされていることを察知し、どのくらいまでやっても大丈夫なのかを時間をかけて、日本人赴任者を試しているのだ。

日本人のインドネシアの法律知識レベルや内部情報を知っているので、会社側の弱点を突いてくる。非常に危険な存在だ。

時期が来たと感じたら、一転して会社側から労働組合側に変わり、お金を引き出す方向に動く。退職をほのめかしたり、給与や待遇の改善を要求したりする。従業員のバックアップがあるので、非常に有利にストライキなどのカードで要求を通そうとするのだ。

態度を変えたことで、不当な扱いを受けたり、給与を下げたりしたら、さらにつけこんで退職金の倍増を要求してくるのだ。

対策としては、
1.過去の職歴をしらべて、前職の社長などに会い、聞き出す
2.優秀だと感じたマネージャーには、探偵を使って行動を把握する
3.警告書など就業規則に決められていることは、温情をかけずに事務的に処理する
4.複数の従業員から、意見を聞き出す

優秀な人材ほど危険だという認識をしておくことが大事なのだ。

まとめ

会社側を相手にストライキが発生してしまったら、インドネシアでビジネスを続けることが非常に難しくなるのだ。生産活動は中止され、納期遅延が起こり、お客様に迷惑をかける。会社としての信頼を失い、最終的には多額の退職金の支払いを余儀なくされ撤退ということにもなる。

ストライキは明日起こるかもしれないのだ。

そのためには、労働法を知り、就業規則などのルールを合法的に定めておく。そして、従業員との対話を頻繁におこない、従業員の不満の解消に常に心を配ることが必要だ。

地道で、時間がかかることなのだが、私の経験上これ以上の対策は存在しないと思っている。決して表面的ではなく、時間をかけて信頼関係の構築する行為こそが、ビジネスの本質であり、会社の発展に繋がっていくのだ。

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