インドネシアの現地従業員による盗難や賄賂の事例と防止法

インドネシアなどの新興国においては、盗難と収賄はよくあることだ。ニュースなどを聞いて知っていても、日本で働いているサラリーマンにとっては身近には経験をしておらず、赴任した現地法人でも”収賄は起こらない”と思い込んでしまう。

恥ずかしいことに、私自身も赴任した当初は「まさか自社で盗難や収賄などが起きることはない」と思っていた。現地従業員による事件が起こってはじめてその思い込みが大きな間違いだとわかった。

今回は日本ではほとんど経験ができない盗みとわいろについて、よくある事例とその防止策についてご紹介する。インドネシアに進出する企業の方にはぜひ参考にして、会社の財産と信用を守る対策を実施してほしい。

1.盗難防止策
1.抑止力として実行するべきこと
2.盗難防止定着
3.よくある盗難品目

2.収賄防止方法
1.抑止力として実行するべきこと
2.収賄防止定着
3.よくある収賄のパターン

1.盗難防止策

盗難防止策

1.抑止力として実行するべきこと

・監視カメラの導入

工場などの場合には、入場門、受付、従業員出入り口、納入・搬出口、裏口のドア付近、倉庫・在庫置き場などを中心に、監視カメラを設置する。事務所の場合には出入り口付近に顔が見えるように設置する。

通常は工場長がモニター監視する。月に1度程度、マネージャーや管理者にも見せることで、ダミーのカメラではないことを知ってもらうが、撮影範囲の死角を詳しくさとられないように短時間に限定することだ。監視カメラは問題発生時に、犯人特定の手がかりになる。

インドネシアの監視カメラは、セキュリティ会社に依頼すれば設置可能。
以下は日系のセキュリティー会社。

・セコム
http://www.secom.co.id

・ALSOK
http://www.alsok.co.jp/company/overseas/indonesia.html

・BASSセキュリティーサービス
http://ptbass-security.com

・ロッカーの配置換え

従業員のロッカーは1年に1回以上、ローテーションをすることだ。ローテーションをすることによって、

・鍵の有無
・ロッカーの破損
・ロッカーに隠しているものを発見

することができるからだ。

鍵がなかったり、破損していると従業員にとって高価で大切な携帯電話が盗まれると感じて異常な不安にかられてしまうのだ。結果、携帯電話をこっそりと現場に持ち込み、作業中に電話をしたり、写真を撮ったりしてモラルの低下に直結する。

また、小さな部品や材料をロッカーに貯めておき、ある時に持っていくといったことも、ある程度は防止できる。

・パソコンは担当者が管理

パソコンの管理を作業者任せにしてはいけない。全社でのコンピュータ管理者を雇用し、定期的にチェックする。パスワード、ウィルスチェック、データのバックアップ、不要なソフトなどの除去をしておくことだ。また、夜間などはインターネットの接続を切っておくことで、有害サイトへのアクセスも防げる。日本人がいない夜間には、密かにネットで遊んでる従業員がいるからだ。

・警備員の配置(業者、従業員のチェック)

警備員はセキュリティーサービス業者と契約すること。警備員には、搬入・搬出などの出入りの業者のチェックを必ず行う。入門証は身分証明書(KTP)と引き換えにし、記録をつける。記録したノートは毎日総務に報告することを義務づける。

従業員については、持ち出しや持ち込みの制限のルールを決め、掲示しておくことで抑止力になる。

・車両運行管理シート

社用車については必ず運行管理シートをつけておき、毎月チェックをする。特に、走行距離とガソリンの消費量との関係を見ておくこと。ドライバーがガソリンスタンドの店員と共謀し、ガソリンをビンなどに入れて転売するといった不正行為があるからだ。

・就業規則への追加

盗難について社内ルールを決め、就業規則や雇用契約書に記入しておく。罰則規定としては、警告書の発行や解雇の要項を入れておくこと。例えば、盗んだ本人には、警告書レベル2で、上司には警告書レベル1の発行とすることで、上司も目を光らせることになる。

2.盗難防止定着

盗難防止定着

・勉強会

インドネシアでも盗むことは悪いことだという認識はある。しかし、どこまでの範囲が盗みに該当するのかは理解していない従業員が多い。例えば、廃棄するものは「どうせ捨てるのだから、持っていってもいい」とか、支給されたものは「会社から自分にくれたものだから、自分のもの」という理解をする。

「廃棄品の場合でも会社の承認がないと持ち出してはいけない」「支給品にはどういうものがあって、所有権は会社にある」などをルールとして決める必要があるのだ。

文書にして、掲示して、勉強会で何度も繰り返し教えることだ。日本人の意識とインドネシ人の意識は違うので、はっきりと定義しておくことが大切だ。

また、携帯電話を貸与する場合にも、頻繁に私用で使ってしまうので、どこまでが公用で、どこまでが私用なのかの定義をしておく。例えば、指定された電話番号以外には全て私用とみなし、料金を徴収するというルールにしておく、などだ。

・警告書の発行

労働法で決められている警告書の発行は必ず実行することだ。感情や温情に流されず、就業規則に書かれている内容に従って、事務的に発行する。日本では優秀な人材や有望な人に対して警告書を発行することは「退職を促す行為」とみられているが、インドネシアでは「警告書が発行されない=やっても良い」という理解をする。

警告書の発行は、全ての社員に対して平等に行うことが大切だ。もし、警告書の発行で有望な人材を失ったとしても、仕方がないという諦める勇気が必要だ。窃盗や収賄を繰り返している社員を抱えていることは、会社の信用を落とす危険性があるからだ。警告書の発行ルールは労働法で規定されているので、よく理解しておくことだ。

・労働に関するインドネシア共和国法律2003年第13号
Undang-Undang Republik Indonesia Nomor13 Tahun 2003 Tentang Ketenagakerjaan

・密告者の保護

ほとんどの盗難、収賄は社内の密告者からの情報で発覚する。密告者の保護を約束し、必ず実行することだ。日本語ができない従業員にとっては、日本人に密告するのは難しいので、投書箱などを用意して、定型のフォームに書き込むようにしてもらう。日本人赴任者もインドネシア語をある程度は勉強して、従業員から手紙を直接理解できるようにしておくことも大事だ。

3.インドネシアで良くある盗難品目

盗難品目

・携帯電話

最低賃金レベルの従業員でもほぼ100%携帯電話を持っている。もちろん工場などの会社内での使用を禁止するので、ロッカーに保管することになる。従業員ロッカーの鍵がかからなかったり、破損していると、盗まれる危険があるので仕事中も不安になるので、こっそりと作業現場に持ち込むことになってしまう。

従業員にとって「ロッカーは大事な金庫」と感じていることを日本人は理解することだ。

・石けん

通常の石けん箱の上においていた石けんが、一晩で全て無くなった経験がある。その後、みかんが入っているネットに石けんを入れ、蛇口にぶら下げるようにしたら、盗まれることがなくなった。

・パソコン

パソコンは中古品の流通ルートができているので、高値で売ることができる。特にノートパソコンは狙われやすいので、帰宅時に持って帰るか、しっかりと鍵のかかる机に入れておく。テスクトップにおいても、南京錠とチェーンでデスクに固定し、盗難防止策をしておく。

・USBメモリー

USBメモリーには番号をつけて、必要な時だけ貸し出すことだ。また、USBメモリーからのウィルスの侵入が頻繁にあるので、必ず定期的なウィルスチェックも必要だ。

・材料

工場の場合には、毎月の棚卸を実施する。倉庫や材料置き場には、監視カメラを設置し、指定された人しか入れないようにする。ある電子部品工場では、工場内にある在庫置き場を動物園のようにすべて金網で囲い、出入り口は、指定されたカード保持者しか入室できないようにした。

・完成品

扱う商品が一般的に売られているものの場合には特に注意が必要だ。在庫と同じように特定の人しか入れないようにしておく。自動車や二輪車用の部品、食品、化粧品などは注意が必要だ。私がいた工場では、材料倉庫と完成品倉庫は、工場内に動物園のオリのようなものを作っていれておいた。

・消化器のノズル

消化設備のホースやノズルは、普段開けることがないので、定期的なチェックが必要だ。ノズルは金属でできており販売することができる。特に屋外にある消化設備は、警備員の巡回チェック項目に入れておく。

・電灯

電球や蛍光灯は、節電のために消灯している場合があるが、消灯している電灯は外して保管しておくこと。保管場所も鍵がかかる保管場所を用意しておく。消灯しているから必要ないと考え、外して持ち帰る従業員がいるからだ。

・工具

共通の工具と、個人別に管理する工具を分けておく。共通の工具については、今誰が使用しているのかを名札でわかるようにしておくこと。個人的な工具は、1ヶ月に1回程度、上司がリストと照合し、中身を確認していくシステムにする。個人的な工具に自分の名前を彫る作業員がいるので、名札等で表示しておくことだ。

・ファイル・事務用品

空きのファイルは「使わないから」という理由で、持って帰ってしまう従業員がいるので、当面使わない事務用品は一定の場所に集めて、種類と数量を管理表に記入しておく。事務用品は部署ごとに、種類と使用数量を記録しておく。使用数量が規定量を超えた場合には、部署の担当者に問いただすことで、盗難の抑止力になる。

・ガソリン

車の使用は、必ず運行管理シートを記入すること。走行距離メータを書き、ガソリンを入れた量との比較をしておく。ドライバーがガソリンスタンドの店員と共謀して、余ったガソリンを転売する可能性があるからだ。

・梱包用品

原材料や完成品と比較して、管理がおろそかになる傾向があるが、梱包用品も材料の一部として、担当者以外を入らせないようにすることだ。

・廃品

捨ててしまうものだから、持っていっても良いという解釈をする。廃品についても契約した業者以外の持ち出しを禁止することだ。従業員が廃品を狙うのは、売ることができることを知っているし、ルートがあるからだ。鉄くず、銅線、アルミ、プラスティック、油や薬品も含まれる。

なお、廃品回収の業者は信頼できるところと取引をすること。暴力団関係の業者が存在する。

2.収賄防止方法

収賄防止方法

1.抑止力として実行するべきこと

・注文書・領収書の確認

ある特定の業者から注文増えたり、減ったりすることをグラフにして、必ずチェックする。部署ごとに確認し、さらに経理でも確認する。特定の業者に発注することを決めている担当者に「なぜこの業者が増えているのか」を必ず聞くことだ。

もちろんそれで解決できるわけではないが、「チェックされている」という認識が抑止力になるからだ。すべての業者を確認することは難しいので金額が大きくなっているところの注目して、実行する。

領収書に関しては、抜き打ちで領収書に書かれた電話番号に電話をする。やってみるとわかるのだが、実際に存在していない会社だったり、まったく違う人につながったりする。「領収書は売っている」ことも覚えておくとよい。

・業務のローテーションとマニュアル作成

マネージャーや管理者は、数年単位で部署のローテーションを行うことだ。「その人しかわからない」「担当者以外にはできない」 という仕事をできるだけ減らしていく。そのためには今の仕事をマニュアルにして、文書に残しておく。担当以外にはわからないということは、収賄問題が発生する可能性が非常に高くなるからだ。

・業者への訪問

半年に1回程度は、大口の納入業者に訪問し、収賄などをしていないかを確認する。訪問する場合には、発注担当者ではなく、日本人と通訳と2人で訪問し、できれば業者のトップクラスを話しをする。話す内容は「自社での収賄の定義は何か」「どこまでであれば許されるのか」を説明し、収賄を防止するために担当者を定期的に変更していくこと、などの会社の基本姿勢を示すことだ。

・就業規則への追加

収賄の定義をはっきりさせ、罰則規定も入れておく。金銭、接待、物品の贈与などは、どこまでがOKで、どこからが収賄になるのかといったルールを示し、罰則である警告書の発行レベルも記入しておく。

2.収賄防止の定着

・収賄防止勉強会

インドネシアでは収賄に関して罪に意識は低い。通常の生活の中でも、便宜を図ってくれてお礼として、お金をあげたりもらったりすることが多いからだ。例えば、市役所の手続きを早くやってもらうために、担当者にお金を渡したり、警察に捕まった場合にも、お金を払えば見逃してくれたり、と言ったことが日常的だからだ。

だから、業者からお金をもらって便宜を図ってもらうことが罪だとは思っていない、チップぐらいにしか思っていないのだ。会社として収賄の定義をはっきりさせて、すべての従業に教育する。教育しづつけることが大事なのだ。

・警告書の発行

ルールを作り、従業員に理解してもらう。それでも収賄行為が発覚した場合には、事務的に警告書などの発行をすることだ。注文を決める担当者は管理者が多く、日本人が信頼している優秀な人ほど収賄事件を起こしやすい。最終的には辞めさせることになるかもしれないが、収賄が広がる前に辞めてもらったほうが、収賄は決してしないという会社としての信用を得ることになる。

・密告者の保護

収賄の発覚は盗難と同じで、内部告発による発覚が多くなる。従業員に対しては、かならず密告者の保護をしてあげることだ。投書箱の設置や、報告のファームを決めておくことで記入しやすくなる。

3.よくある収賄のパターン

収賄のパターン

・雇用(人事部)

インドネシアで希望する会社や官庁に就職する場合には、コネがあり、お金を支払うと、便宜を図ってもらえるという暗黙のルールがある。人事の担当者は、わいろをもらって入社させる場合があるので、注意が必要だ。

そのためにはかならず入社基準を決めておくことだ。特に現在働いている従業員の家族や親族については、入社させないなどのルールを決めておく。データ改ざんについても複数で確認することだ。

・経理

経理担当者は業務をマニュアル化し、ローテーションを行うことだ。小口現金の処理方法から、経理関係書類の作成方法、異常な請求書や領収書のチェック方法もマニュアルにしておく。経理の知識がなくても、業務ができるようにしておくことだ。

また、日本から赴任している経理担当は、3年をめどに交代すること。海外においてはどうしても情報が少なくなるため、同じ経理担当をしていると、日本人でも不正をする可能性が高まるからだ。

現地の有能な社員ほど事件を起こしやすいと考えることだ。毎年1回は、日本から会計のチェックを行うことも必要だ。

・購買

購買業務関係は、日本においても発注権限を上位の役職がになっているので、インドネシアにおいてもそのシステムをきちんと行うこと。異常な発注やムダな注文も防ぐことができる。

・輸出入関係

輸出入関係の業者選定などには、日本人が輸出入の業務を理解し、関わっていくことだ。また、税関関係者とのつながりも保っていくことで、貿易関係業務がスムーズにいく。

・設備購入

金額の大きい設備の導入には、かならず日本人が発注権限を持つようにして関わっていく。金額的に小さなものでも現地企業との取引も担当する日本人が関わることだ。定期的な業者の訪問も合わせて行うこと。

・メンテナンス委託業者

電気、水道、社屋の修理などのメンテナンス業者の選定も日本人が関わっていき、かならず結果をチェックすること。できれば、立ち会って業者の仕事内容を把握しておくことで、金額の整合性が理解できるようになる。

・警備員

警備員や監視カメラの設置、従業員の入退出のチェックは、警備会社に依頼する。警備会社によって、品質の差が大きいので自社にマッチした警備会社を選ぶことだ。多くの現地警備会社は、管理者は軍人出身が多いが、実際に派遣された警備員のレベルは低い。

・日本人

経理は3年、それ以外の駐在員は5年を目安に交代することだ。あまり長い期間だと不正を起こしやすい。女性関係でお金が必要になり、会社のお金を横領する事件が後を絶たないからだ。

まとめ

インドネシアに赴任・駐在する人は、盗難や収賄などの件についてほとんど経験がない。現地においては盗難や収賄は頻繁に発生するといくことをまず理解することだ。収賄はインドネシア人の中では、罪の意識が低いので、収賄の意味を定義し、ルールを作り、教育していくことが一番の早い方法だ。

そして、盗みをしない、わいろをもらわない、しない、という会社の方針をしっかり伝え、罰則規定を実行していくことが、抑止力になっていく。さらに、日本人駐在員にも不正をさせないと仕組みを作っておくことで、会社の方針を貫き、会社としての信用を落とすことはなくなるのだ。

ぜひ、この記事を参考にして、会社として方針をすべての従業員理解させ、盗難や収賄がない会社として正しく発展していってほしい。

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