メーカーにおいても、サービスを行う会社であっても、整理・整頓・清潔は基本中の基本だ。重要性は理解していても、文化レベルと意識が異なるインドネシアでは、従業員に意味を理解させ実行に移すには、徹底した仕組みが必要だ。

進出した会社がすべき最初の仕事は、整理・整頓・清掃を教えることだ。

私の9年の赴任経験のなかで、失敗を繰り返しながら有効あった整理・整頓・清掃を習慣化させる手法についてご紹介する。

これから進出する企業だけでなく、すでに進出している企業も、整理・整頓・清掃が徹底されていないと感じるならば、良い手引きとなると思うので読み進めてほしい。

1.現地法人のトップが実行を決意する
2.プロジェクトの名前をつける
3.他社に見学に行く
4.幹部社員と一緒に行動計画をつくる
5.道具を準備する
6.やらせる仕組みをつくる
7.従業員の教育
8.実施
9.改善をする

1.現地法人トップが実行を決意する

現地法人トップが決意

整理・整頓・清掃は、従業員全員が実行すべき仕事の基本であるにもかかわらず、インドネシアでは一般常識として意識をしていない。これら仕事は専門の担当がやるべき仕事であり、通常の従業員はしないと感じているからだ。ましてや進んでやろうという従業員は皆無に等しい。

だから、会社のトップとして、整理・整頓・清掃のプロジェクトを実行するいう決断が必要だ。

会社の仕事として、作業員からマネージャー、日本人駐在員も含めすべての人を対象としたプロジェクトとしてやるべき内容なのだ。トップとして決断し、基本的な構想を社員に示し、全員を巻き込むことがファーストステップになる。

基本構想としては、

・会社を業界一番のきれいな状態にする
・活動を通じて従業員の育成をする
・製品やサービスの品質をあげる
・納期を短縮し、コストダウンする
・部門ごと、個人ごとの評価にリンクする

2.プロジェクトの名前をつける

プロジェクト名を決定

現地法人のトップが決断し基本構想をまとめたら、駐在員、マネージャーを呼び、プロジェクトを実行することを宣言する。そうしたら基本構想を伝え、プロジェクト名を決めることだ。

例えば、整理・整頓・清掃の頭文字をとって、「3Sプロジェクト」にするなどだ。他にはインドネシア語のPeraturan(整理)、Ketertiban(整頓)kebersihan(清掃)の頭文字をとって「PKKアクション」や、「ピカピカ作戦」などでもいい。
従業員がすぐ想像し、理解できるようなネーミングにすると良い。

業界用語にかぶったり、インドネシア語でネガティブな言葉でなければよいので、現地マネージャーと自由な発想で、ネーミングを考えるだ。この作業により、押し付けではなく現地マネージャーも「参加している」と意識できるのだ。

3.他社に見学に行く

他社を見学

インドネシア従業員は、整理・整頓・清掃の意味はわかっても、実際にどういう状態なのかは理解できない。一番理解が早い方法は、できている他の会社を見ることだ。できれば、日系の自動車、二輪関係である、トヨタ・ホンダ・スズキなどがオススメだ。それ以外でも、取引先や商工会議所、工業団地内のメンバーにお願いすれば、承諾してくれるところは多い。

まずは現地マネージャーや管理者をつれて、見学をすること。事前に見るポイントと自社との比較をするように言っておくことだ。もし、写真撮影などの許可がもらえれば、自社に持ち帰り、他の従業員にも説明することができる。

さらに、管理者の部下である現場のリーダーにも、同じように社外見学をすると、また違った視点で見ることができるのでさらに進歩できる。

4.幹部社員と一緒に行動計画をつくる

基本構想とイメージできたら、トップは駐在員、マネージャーや管理者を交えて、行動計画を作成する。マネージャーや管理者と一緒に計画を作成するのは、意識を高めるためと、自分からやろうという意欲を出させるためだ。

行動計画には以下を入れる。

・プロジェクト名
・プロジェクトリーダー
・期間
・従業員指導の部署・日時
・マニュアル作成予定
・共用部分の担当
・部署毎のチェック項目
・巡回チェック日
・目標数字
整理・整頓・清掃の計画例
[整理・整頓・清掃の計画例]

5.道具を準備する

道具を準備

整理・整頓・清掃を従業員にやってもらうには、掃除道具や掲示物などの道具が必要だ。これをリストアップし、購入する。一度に全部揃えるのではなく、毎月買い足していくと経理上負担は少なくなる。

購入するものは以下のとうり。

・ホウキ、ちりとり
・掃除機
・バケツ
・雑巾、たわし
・洗剤
・ゴム手袋
・マスク
・掃除道具入れ用のロッカー
・模造紙
・ポストイット
・スタンプカード
・カルト・テレマカシ(ありがとうカード)
・表彰用の用紙

6.やらせる仕組みをつくる

基本的な概念をマネージャー管理者が理解し、達成すべき状態がわかり、計画をつくり、道具も揃えた。ここからは「どうやって従業員にやってもらうか」という仕組みについてお話しする。

まずはインドネシア従業員は、整理・整頓・清掃はやりたくないということを受け入れることだ。受け入れた後に、「やりたくないことをどうやったらやってもらえるだろうか」ということを考える。やってもらえるように仕向けるのが駐在員やマネージャーの仕事だ。やってもらうには、大きく2つの戦略がある。

・強制的にやってもらう。
・「エサ」を与えてモチベーションをアップする

2つのことを合体させ強制的にやらせる一番よい方法は、社内ルールをつくることだ。有効的であった整理・整頓・清掃をやらせるルールは以下のとうり。

1.30分を掃除の時間にし、週に1度は整理・整頓の時間にする

業務開始後、30分を掃除の時間にする。週に1度は整理・整頓の時間にすることだ。詳しいやり方は、サボらず掃除するようになるを劇的な仕組みを参照してほしい。

そして、1週間に1度は整理・整頓の時間にすることだ。ポイントは新聞紙1枚ほどの小さな範囲を、おしゃべりをしながら掃除をすることだ。掃除をしていないところと比較が目で見えるし、最大のコミュニケーションの時間となる。

2.スタンプカード

スタンプカード

夏休みのラジオ体操で使ったスタンプカードのことだ。掃除や、整理・整頓に参加するとスタンプがもらえる。このスタンプが50個たまると、チョコレートがもらえるなどのご褒美をあげることだ。また、100個溜まると、日本人との食事会に参加することでもよい。

子供じみていると思うが、このスタンプカードを使うと出勤率が上がる。プレゼントをほしいし、スタンプが溜まること自体が楽しくなってくる人間の心理だ。

3.カルト・テレマカシ(Kartu Terimakasih)

ありがとうカード
[ありがとうカード]

「ありがとうカード」のインドネシア語表現になる。誰から、誰に送ってもよい。仕事に関することでも、整理・整頓のことでもなんでもいい。感謝を伝える仕組みだ。
ルールとしては、管理者やリーダーは最低枚数を決めておき、それ以上発行しないと評価下がる。つまり、上司は部下のことをよく観察し、部下に感謝の気持ちを表す必要があるのだ。整理・整頓・清掃は従業員にやってもらわなければできない。その行為に感謝する気持ちを伝えるツールだ。

もう一つは、一番カルト・テレマカシをもらった人は、毎月表彰されることにする。つまり、よいことをやってあげるたり,「ありがとう」と言われることをたくさんやった人が報われるシステムだ。

カードを発行したことと、もらったことをわかるようにするために、部署ごとに模造紙に貼り付ける。すると一目で誰が多くカードをもらっているかがわかる。これが、個人のモチベーションアップと改善につながるのだ。

例えば、ファイルを見つけやすいように整理するとか、掃除をきちんとやると、上司からカードが届く。それがモチベーションにつながるからだ。

4.発表会を開催

各部署やグループ毎に、毎月発表会をする。どんなこところを整理、整頓したのか、どういった改善をしたのかを発表する。ここでのルールは、他の部署や他社から得たアイディアを取り入れることだ。どのくらいマネをしたかが評価される。

「このグループのアイディアからヒントに作った」「これはこの部署のアイディアをもらった」ということを発表する。

新しいアイディアよりも、「盗んでくる」ことが大事だと教える。すると”新しい知恵を出さなければならない”というプレッシャーから解放されるし、他部署のよいところを盗んでやろうとすると、全体的にレベルが上がってくるからだ。

5.日本人と食事会

私の長い駐在生活のなかで感じた一番効果的なご褒美は、日本人との食事会だ。ほとんどのインドネシア従業員は日本人と食事をすることを望んでいる。日本だと上司と一緒に飲みにいくことを嫌う人がいるが、インドネシアの場合には、上司との食事は親近感をもってもらい、話を聞いてくれるうれしい時間なのだ。

赴任者にとっても楽しい時間となり、従業員の状況を知ることができるよい機会だ。従業員の悩んでいること、不安に思っていること、将来の夢などが聞ける。駐在員は、聞き手に徹することで、アドバイスすることではない。お説教になってはいけないのだ。

6.社内表彰をする

全社員の前で表彰されることはすごく名誉なことだ。だから、創立記念パーティーなどで、一番評価がよかった個人、グループには表彰することだ。そして、副賞として、テレビ、冷蔵庫、バイクといった生活にすぐ使えるものがよい。

名誉な表彰を受け、欲しかったものが手に入るとなると、モチベーションが1年間続けることができるからだ。

7.日本に研修に行く

インドネシア人の多くの一生のうちに成し遂げたい夢は、メッカに行くか、日本に行くということだ。メッカ行くためには、何十年と積立をしているイスラム教の信者も多くいる。日本に行けることは、最高のプレゼントだし、嬉しいことだ。

最近では、エアアジアなどのLCCが多くあるので、日本への渡航費用もかなり安くできる。日本の本社の見学や関連会社の見学、新商品のトレーニングなどで、評価のよい従業員を優先的に、日本に行くことになれば最大のモチベーションアップにつながる。評価が高いということは、物事をよく観察し、改善を重ねた経験があるので、見学で本社に対して意見をいう機会を設けると、本社からの評価も高くなるのだ。

私も新商品のトレーニングのために、評価の高い社員を連れて日本に行ったことがある。日本ではある製品において、作り方に苦慮していたところを、インドネシア人作業者がアイディアを出して、ある工程作業を簡単に完了してしまったことがある。製造現場で鍛え、改善意欲を持ったインドネシア人は、日本人より能力が高いと感じた瞬間だった。

7.従業員の教育

従業員教育

整理・清掃・清潔を実際に実行するのは従業員だ。従業員にこれらの考え方とやり方、仕組みを伝えることが重要だ。インドネシアの工場の場合には、バスでの送迎が一般的になるので、作業開始時間前に到着し、時間が終わったらすぐ帰宅用のバスが出発する。問題は、従業員の教育のための時間を確保することが難しいことだ。

そのための工夫が必要になる。例えば、以下のようなことだ。

・教育用テキストを作成する
・昼休みの時間に10分程度の勉強会ビデオを見せる(出席者にはスタンプカードに捺印)
・1月に1,2回程度、グループに分け、終業後に勉強会を開く(1時間程度)
・新人教育のカリキュラムに入れる
などだ。

講師は、最初はマネージャーや管理者がやるが、順次現場リーダーや一般社員にも講師になってもらう。自分が知識がないと教えることができないからだ。だから、講師を指名された従業員は、いろいろな人に聞いて、マニュアルを読み込まなければならない。それが知識を深めることになる。

学習は聞くだけでは、身につかない。すこしぐらい間違ってもいいから自分の得た知識を人前で話すことが一番のスキルになる。赴任者はそのプレゼンを聞けば、将来有望な人材になるかどうかも判断できる。

8.実施

30分の掃除
[30分の掃除]

従業員の勉強会が始まると同時に実施する。始業前の30分を使って、掃除や整理・整頓をしていく。最初は様々な問題が発生する。予想される問題や発言は以下のとうり。予想される問題には、対応方法を準備しておくことも大事だ。

・掃除の場所がわからない
・掃除道具の使い方がわからない
・道具が足りない
・サボる人がいる
・マネージャーや管理者が一緒に掃除をしない

・遅刻する人がいる
・制服が汚れる
・疲れる
・なぜ掃除しなきゃいけないのかわからない
・「整理しても作業は早くならない」と言う

・「整理よりも早く仕事をしたほうがいい」と言う
・スタンプカードを忘れた場合の対処方法
・「設備の掃除は設備担当がやるべきだ」と言う
・カルト・テレマカシに書くことがない
・やりたくない

・「巡回チェックはエコヒイキしている」と言う
・「また、へんなプロジェクトをやっている」と言う
・「そのうちやらなくなるだろう」と噂を流す人がいる

9.改善を続ける

改善を続ける

プロジェクトを始めると、いろいろな問題が発生する。それらを一つ一つ解決していくことだ。結果はすぐには出ない。最低半年は結果がでなくても続けることが大事だ。

1ヶ月後の巡回チェックの後は必ず反省会や従業員の意見を聞くことだ。すると何が足りないのかかがみえてくる。プロジェクトリーダーは、最初は専任にしてマニュアルや計画書を再度作りなおしていくことだ。

そして、他者のベンチマーキングから、自社のレベルを知り、改善していくサイクルを繰り返すことだ。

まとめ

インドネシア人に整理・整頓・清掃を定着させるには、まず現地法人トップが決断をすることだ。一部の部署や駐在員単独で行なっても、定着はしない。全社的な取り組みにし、仕組みを作り、改善をしていくのだ。特に掃除は目で見ることができるので、誰がやっても、やった分だけ評価が上がることになる。他より頑張った人には、ご褒美をあげたり、評価を高くすることで収入アップにもつながる仕組みがどうしても必要なのだ。

最初が成果が出るまでには時間がかかるが、習慣化して、ある程度のレベルにいくと、会社の文化として受け継がれるようになってくる。一連のプロジェクトのやり方や進め方をマネージャーとともにやると、それ以外のプロジェクトにも応用できる。つまり、人材育成の最初のベースとなるのだ。

ぜひこの記事を参考に、会社の基本である整理・整頓・清掃を定着させ、会社の文化となることを願っている。