インドネシアでは掃除専門の人が掃除をし、従業員は掃除をしない。掃除は低学歴の人がやることと当地では決まっている。高校卒業以上の学歴者は掃除をしないというのはインドネシアでは一般常識なのだ。
会社や学校、家庭でも、お手伝いさんか用務員さんが掃除をしていることが多い。

私がインドネシアに赴任して驚愕したことの一つが、この掃除についての意識の違いだ。いまでも多くの赴任者が最初に突き当る壁だ。インドネシア人従業員に、仕事の基本である掃除をさせ、さらに習慣化されることにとても苦慮しているのだ。

今回は私の9年の赴任経験から、現場で何度も思考錯誤し、その結果効果があった「インドネシア従業員にサボらず掃除をするようになる仕組み」についてご紹介する。
ぜひあなたの会社でも採用し、従業員の意識を変えてほしい。

序章.掃除についてのインドネシア人の発言
1.掃除をやらざるを得ない仕組み
2.新聞紙1枚の広さを徹底的に磨く
3.日本人も話しをしながら一緒に
4.達成感を感じさせる方法
5.悔しがらせることでレベルが上がる
6.創立記念パーティーで表彰する

序章: 掃除についてのインドネシア人の発言

掃除の発言

私が経験した、従業員の掃除に関する発言をまとめてみると以下のようになる。多くのインドネシア赴任経験者は大きくうなずくと思う。

・「私は高校卒業したから掃除はしなくてもいい」
(学歴格差社会)
インドネシアは学歴格差社会だ。ほとんどの日系企業の採用条件は、高校卒業レベルだ。大学卒業でもS1,S2,S3とレベルがあり、希望する給与も異なる。高卒者は中卒者と比較して、自分の仕事内容を決めつけているのだ。掃除は中卒者以下の人、つまりお手伝いさんレベルがやるべき仕事という暗黙のルールが存在している。

・「就業時間外に掃除?まさか!」
(会社はボランティアをするところではない)
日本においては就業時間内にしっかりと仕事ができるように、出社したら自分の机の周りなどを整頓し、掃除をしておくのが常識だ。しかしインドネシアでは、就業時間外は会社内にはいるが「自由時間」という意識なのだ。例えば、朝礼が8:00ちょうどに始まることは知っていても、8:00になってからロッカー室やトイレから移動を始める。当然、朝礼の開始時間が遅くなってしまう。ましてや掃除を給料のもらえない時間外にすることは、まったく考えられないことなのだ。

・「もうキレイだよ」
(キレイというレベルの違い)
日本に来たインドネシア人が最初に感じることは、道路や建物も含め素晴らしくキレイなことだ。逆に言えば、日本人からみるとインドネシアの道路も建物も工場も汚いと感じてしまう。日本人赴任者は日本の常識と比較し、「まだ、キレイになっていない」と言っても、従業員は比較対象がインドネシアのごみだらけの道なので、「十分キレイな状態」ということになるのだ。

・「ごみやホコリがあるのは私のせいではない」
(責任回避)
自分自身がミスをしたり、明らかに自分に責任がある場合以外は、責任を回避するのが常だ。200年以上もオランダの植民地として統治され続けた結果、自分に責任があることを認めてしまうと処刑されたからだ。今でも責任回避する発言は根強く残っている。だから、自分がごみを撒き散らしたわけでもなく、ホコリをばらまいたわけでもないので、「私のせいではない」ということが当たり前なのだ。

・「私はこの仕事をするだけです」
(契約外のことはしない)
学歴格差社会なので、自分の仕事は決められたこと以外はしないし、範囲外の仕事について「私仕事ではない」と区別する傾向がある。マネジャーの仕事、管理者の仕事、ワーカーの仕事、用務員さんの仕事とはっきり分けて作業をするのだ。それは責任範囲と給与に直結していることを理解しているからだ。

・「お金がもらえるならやります」
(お金崇拝主義)
インドネシア語で、就職活動のことを「お金を探す」(Cari Uang)という表現を使う。お金が落ちていて、拾い上げることが「仕事」という基本的な概念なのだ。会社での作業すべてが「お金を探す」ことだけの動きなのだ。だから給料やお金が確実にもらえることであれば、前向きに取り組んでくれるのだ。

1.掃除をやらざるを得ない仕組み

掃除とお金

日本人に命令する感覚で「掃除をしろ」「キレイしろ」と言っても、インドネシア人労働者はまったく動かない。だから、やらざるを得ない仕組みが必要なのだ。言い訳をさせず掃除をやらせる手順は以下のとおりだ。

1. 掃除のマインドセットを伝える

最初にすべきことは、インドネシア人従業員の掃除に対する意識を変えることだ。マネージャー、管理者、リーダークラスに日本人から直接教え、その後従業員全員に教えるのだ。

・掃除と評価がリンクしている
掃除は部門ごとに評価し、部門に所属する従業員の評価につながっている。つまり、掃除をしてキレイになっている部門が給料が上がるということをはっきり伝えることだ。

・掃除は仕事をやりやすくするための手段
掃除は単純にキレイするだけでなく、私たちの仕事場の環境を整えて、仕事をやりやすく、時間を短縮し、効率を上げることだ。そのためには、まず自分の周りからキレイにしていくこと。次に部署内、その次に会社全体をキレイにしていくことだ。

・整理・整頓・清掃が仕事の基本
オフィスや工場ではムダがたくさんある。例えば、物を探す時間のムダ、物を運ぶムダ、在庫のムダ、停滞のムダなどだ。物の場所が決まっていて、探しやすいように整理されていれば、かなりのムダを省くことができる。清掃することによってそのムダが見えてくるようになる。

・会社はショールーム
会社にはお客様が必ず訪問する。キレイな会社と汚い会社ではどちらが信用されるだろうか。もちろんキレイな会社だ。それも他社と比較して圧倒的にキレイであれば、その会社の製品の品質も高いと思ってもらえる。だから会社自体が次の受注につなげるためのショールームでなければならない。

・会社をキレイにすれば心もキレイになる
会社を自分たちでキレイにすることが大切なのだ。掃除が終わったら、手を洗う。同時に心も洗われるのだ。自分でキレイにしたところを汚すことはできないし、キレイに保とうとする心が養われる。キレイな職場にはキレイな心が宿るのだ。

2.初期トレーニング+勉強会で掃除のやり方を教える

掃除道具だけを与えても、使い方を正しく教えないと効率的ではないし、道具もすぐに痛んでしまう。だから掃除道具の使い方も教えなければならない。入社直後のトレーニング時はもちろん、半年に1回はグループ毎に勉強会を開き、使い方や管理方法をマニュアルにして、教えていくことだ。

・掃除道具を揃える
ホウキやちり取りやバケツ、たわしなどは地元のホームセンターなどで販売しているので購入する

・保管場所を決める
縦長のロッカーを保管場所にするのが一般的で、必ず表示をつける。

・掃除道具の管理方法を決める
掃除道具の管理者を決め、チェックする項目を決め、チェックシートを作っておく。例えば、ホウキの管理では、先端にが丸くなってホコリが付着している状態になってしまうので、新しいものと交換する状態を写真で決めておく。

・掃除道具の使い方
ほとんどの従業員は学校でも掃除をしたことがない。ホウキの使い方、ちり取りの使い方、雑巾の絞り方などもマニュアルにして教える。

・結果を比較して見せる
日本人担当者と現地マネージャーは月1回に掃除の状況をチェックし、結果を部門ごとに張り出していく。

3.業務記述書に明記する

役職ごとに業務内容を記載した業務記述書(Jog Description)に「掃除をする」と記載すること。掃除は全ての役職に入れること。業務記述書に書かれていることが基準となるので、内容については1年毎に確認しておくこと。

初期トレーニング時や社内勉強会などでも、業務内容について教えることで、「掃除も仕事に含まれる」ということを理解させることだ。

4.業務時間内に30分やる

30分の掃除

インドネシアの場合は、週40時間が法定就業時間だが、掃除も就業時間内に行うことだ。一般的には就業の開始直後がよい。工場などのシフト作業の場合も、就業時間が始まって30分間は掃除や整理整頓の時間とする。

工場生産数の関係で就業時間中のすべてを生産活動にしたいと考えてしまうが、可能な限り30分は必ず掃除や整理整頓の時間を確保して生産計画を立てることだ。

5.担当エリアを決める

部署ごとに掃除エリアの計画を作成し、掃除をする。共同で使用するトイレ、手洗い場、お祈り室、ロッカールーム、食堂などは、月ごとに交代していくとよいだろう。

6.評価をする

日本人赴任者とマネージャーが毎月1回は会社内を巡回し、各部門のチェックをしていく。評価項目は以下を参考にしてほしい。

No. 内容 点数 評価 評点
1 部門のまわり5メートルにゴミが落ちていない 5
2 巡視の際、名札を付けている 5
3 制服、上履きがキレイか 5
4 ゴミが分別されている。(燃えるゴミ、燃えないゴミ) 5
5 床が全面きれい。もしくは前日との差がある。 5
6 文房具の向きが同じ。 5
7 ファイルに表示があり順番になっているか 5
8 パソコン、机の上、机の下がキレイ。 5
9 机の中が整理されていてキレイか 5
10 道具ロッカーがきれい。(数量、名前が明示されている) 5
11 トイレがきれい(汚物入れがある) 5
12 椅子・机などがの備品がきれいか。 5
13 蛍光灯・ガラスがきれい。不在時は電気を消す。 5
14 全体の印象 A10点 B5点 C0点 10

[掃除チェックシート]

2.新聞紙1枚の広さを徹底的に磨く

新聞紙1枚の広さ

就業時間に30分という時間を使って掃除をし、毎日決められた場所をピカピカにすることを目標とすることだ。小さなエリアである新聞紙1枚ほどの広さを徹底的に30分間磨くことだ。
すると、まだ掃除していない場所のの差がはっきりしてくる。共用部分については、掃除したところと、していないところをわざと仕切って比較しておくと、従業員全員が見ることができて、意識が変わってくる。

掃除はだれがやってもできるし、結果もすぐわかる。サボっていれば、サボっている部門の評価が下がるので、競争心が働くのだ。

トイレも同じように、便器に手を入れて磨く。もちろん最初はだれでも嫌がるが、日本人が手本を見せてあげることだ。実はトイレが一番達成感が強くなる。そして、トイレを汚さないような気持ちが養われるのだ。

ここでのポイントは、全体的にキレイにしようとするのではなく、個人の成果がはっきり分かるような小さな部分を磨き上げることにある。従業員も結果がすぐ出るし、評価も上がり、昇給に直結しているとなると真剣にやらざるを得ないからだ。

3.日本人もおしゃべりをしながら一緒に

おしゃべりしながら

掃除をするときのルールは「おしゃべりをしながらやる」ということだ。そして、日本人赴任者も、大卒のマネジャークラスも、管理者も例外なく社員全員が一緒にやることが大事だ。

この掃除の時間は最高のコミュニケーションの場となる。上司と部下の垣根を外し、掃除をしながら個人的なことについて話すことが大事だからだ。例えば、「なにか落ち込んでるようだけどなにかあった?」「最近悩んでいることはあるのか?」「恋人はいる?」「結婚はいつするのか?」などだ。

日本ではセクハラで訴えられそうな質問だが、インドネシアでは一般的な質問であり、逆に「私のことを気にかけてくれている」という感覚を持ってもらえるのだ。

マネージャークラスや管理者クラスにも、部下と積極的に話すことを強制する。上司と部下の気持ちが離れてしまうのは、単純に話す機会と時間が足りないだけなのだ。気持ちが離れてしまうと、会社に不満がたまり、最終的にはストライキやデモといった労働問題に発展してしまうのだ。

毎日、部下とおしゃべりをすることで、親近感が増し、部下から意見も言いやすい。上司からみれば、掃除の取り組み方で従業員のやる気や性格、プライベードを知ることができて指示がやりやすくなるのだ。

4.達成感を感じさせる方法

達成感を感じさせる

就業時間内に掃除をすることによって、給与が少し増えるだけでは、時間だ経つうちに当たり前になってしまう。だから掃除という習慣を身につけるためには、さらなる「エサ」が必要だ。

一番効果的であった方法は、スタンプカードだ。小学校の時代にラジオ体操に参加するとスタンプがもらえ、全てにスタンプが押されているというだけで達成感が得られたという気持ちを持っている人は多いと思う。

掃除についても、このスタンプカードを採用することだ。掃除をすると、部門の管理者から1つスタンプがもらえる。50個貯まると何かのプレゼントをもらえたり、100個貯まると日本人とのの食事会などに参加できるというものだ。スタンプカードのもう一つの利点は出社率が上がることだ。スタンプを押してほしいために、休まなくなるのだ。

達成者には社内で名前を張り出し、評価も上がるとなると、嫌な掃除も参加したくなるのだ。

5.他社との比較で悔しがらせる

他者との比較

ある程度掃除の習慣ができてきて、社内がキレイになってくると慣れてきて「これで完璧だ」と思ってしまう。レベルの上げるためには、マネージャーや管理者をつれて、他のオフィスや工場を見学し、ベンチマーキングすることだ。

比較することによって、自分の会社ではできていないことが見えてくる。掲示物の内容であったり、トイレのキレイさだったり、整理整頓のレベルだったりする。まずは気づいてもらい、悔しがらせることで、自社の進化をすることができるのだ。

できれば、管理者だけでなく、順番に作業員レベルの代表もつれて、半年に1回ぐらいの頻度で、他社の見学をするとよい。

6.創立記念パーティーで表彰する

創立記念パーティー

進出した多くの会社は、創立記念パーティーを開いている。パーティーの中で、1年間の間に頑張った人には表彰することだ。掃除のスタンプ数が一番多い人や評価が年間を通じて一番評価が良かったグループを表彰する。

副賞としては、テレビやバイクなどの高額商品がよい。現金支給よりは、多くの前で表彰され、注目されることが非常に名誉に感じるし、さらに欲しい物が実際に手に入るとなるとモチベーションは1年間継続できることになるからだ。

まとめ

清掃をしてキレイに保つことは会社の基本だが、インドネシア従業員に徹底するためには仕組みが必要だ。就業時間内に給料を払い、新聞紙1枚の広さを、30分もかけてピカピカに磨くことが大切なのだ。そして、掃除をしながらおしゃべりをすることによって、社内のコミュニケーションを深めながら従業員の意識を変えていくことだ。

掃除はだれがやっても結果がみることができて、達成感も味わうことができる。「たかが掃除」だが、インドネシアの歴史と文化を理解し、仕組みを作り、モチベーションを高く維持していくことが大事になる。そしてキレイになった会社には、心のキレイな社員が育つのだ。

掃除を習慣にするには時間がかかるが、この記事を参考にして取りくみ、ピカピカの会社に成長してほしい。