混沌としたインドネシアでは、水と安全はタダではない。どうしても会社を不測の事態から守る警備が必須だ。窃盗、放火、テロ、デモなどが明日発生するかもしれないのだ。インドネシアでは、工業団地内はもちろん、都市部でも地方においても警備員の姿をよく見かける。それだけ警備が必要な国だということだ。
今回はインドネシアにおける警備と警備員の管理方法について詳しくご紹介する。会社と自分を守るために予備知識として確認しておいてほしい。
1.警備が必要な理由
2.実際の警備と運用方法
3.警備員との付き合い方
4.日系警備会社リスト
1.警備が必要な理由
[出典:Kompas.com]
・不審者の侵入を防ぐ
インドネシアに駐在して感じることの一つに、不審者が多くいることだ。昼間からぶらぶらしている若者、ストリートチルドレン、物乞いをする人、道ばたで歌を歌っているニューハーフ、夜中にバイクに乗って奇声をあげている人、ホームレスなども溢れかえっている。
工業団地内であっても、一歩でも敷地外にでれば公共の道路なので誰でも通行可能だ。住宅地においては、壁を乗り越えればすぐ侵入できてしまう。泥棒にとっては、「日系企業はお金がたくさんある」と思っているので格好の標的なのだ。面白半分で放火をする人も絶えないし、不審火のニュースは毎日のようにある。
対策として警備員の配置は、ホテル、アパートメント、ショッピングモールはもちろん、ほとんどの企業も行っているし、個人の住宅にも警備員がいる。インドネシアがは警備大国だと言っても過言ではないだろう。
・テロの危険性
近年はイスラミック・ステートなどのテロ集団が勢力を増してきているが、インドネシアではテロ事件は数年に1度は起こっている。以下は2000年以降ニュースになった大規模なテロ事件。
2000年:ジャカルタ証券取引所ビルで爆破、キリスト教教会で爆弾テロ
2002年:バリ島クタのクラブで爆破事件
2004年:ジャカルタのオーストラリア大使館前で爆破事件
2005年:バリ島クタのクラブで爆弾テロ
2009年:ジャカルタのマリオットホテルで爆破事件
2011年:中部ジャワのソロで教会が爆弾テロ
2013年:西ジャカルタの仏教寺院で爆破事件
爆破テロ以外でも、デモ隊の乱入やいやがらせなど、集団で企業を襲う場合もある。
・無人時の警備
無人になった時の工場や事務所は標的になりやすい。インドネシアでも自動的に警備会社に通報するシステムが必須だ。工場の場合は、エリアを2つに分けている場合が多い。夜間に無人になった事務所部分と工場建屋全体の警備システムだ。
窓やドアが開いた時と、侵入者の移動を赤外線で検知し、警報するシステムが通常設置されている。常駐する警備員を配置していても、警備会社の通報システムは設置することだ。警備員が共謀して窃盗をする可能性があるからだ。
・火事を防ぐ
工場はもちろん事務所においても、火事について非常に注意しなければならない。インドネシアの火災原因のトップ3は、漏電、タバコ、放火だ。それぞれの原因に対して対策をする必要があるが、特に品質の低い電気配線などから漏電し、出火に至るケースが後を絶たない。
2015年ジャカルタ郊外の工業団地内で、日系のマンダム(化粧品)の工場で爆発と火災で、5人が死亡する事件も起きている。原因は調査中だが、他人事ではないということだ。
・サイバーセキュリティー
ここ数年のインターネットの急激な普及と個人でもパソコンを持てるようになってきた。さらに、ITの知識をもった若者も増え、ウィルスの蔓延も多くなってきている。
日系企業の場合には、日本の本社との連絡経路と社内のネットワークの接続について、十分なサイバー攻撃対策が必要だ。通常のインドネシア人従業員は、コンピューターに慣れていないため、サイバー攻撃やウィルスに対する認識が低いからだ。
2.実際の警備と運用方法

・侵入センサー
日本でも一般的になっている、侵入センサーによる通報警備システム。窓、ドアに取り付けられたセンサーと赤外線の移動センサーが感知すると警備会社に自動的に通報され、警備員がかけつけるというシステム。
工場などの場合は、無人時の対策として、夜間の事務所など特定の場所と、工場全体の建物にかけるという、2つのパターンで行っているところが多い。
工場の改築や出入り口の変更などを行った場合には、必ず侵入センサーの設置の見直しを行うことだ。
・監視カメラ
入場門、玄関、従業員の通用口、倉庫の出入り口、裏口などを中心に設置する。モニターは工場長などの現地法人のトップが監視する。広大な広さを持つ工場であれば、警備監視室を設置し、専用の警備員を配置することもある。最近では、暗闇でも見ることができる赤外線カメラを使っているところもある。
監視カメラには2つの目的がある。一つは外部からの侵入者を把握する。もう一つは社内の従業員の監視だ。特に従業員の持ち出しや不信な行為を監視、録画することができる。
監視カメラを設置したら、現地マネージャーや管理者に見せることだ。従業員に設置されたカメラはダミーではないことを広めてもらうためだ。ただし、頻繁に見せて撮影範囲を特定されないようにする。現地マネージャーと従業員が共謀する場合があるからだ。
・煙センサー
火災防止のために煙センサーを設置する。インドネシアでは、煙センサーの中に虫などが入って動作不良になる可能性があるので、毎年1回は確認することが必要。
スプリンクラーを設置している場合には、末端部分について水が出ることを毎年確認しておくことだ。スプリンクラーはあるが、水が出ないこともある。インドネシアでは断水や通水を繰り返すことが多く、配管が汚泥などで詰まってしまう可能性があるからだ。
・IDカード
写真入りの従業員のIDカードは必須。インドネシアでは日本で見られる、自動改札機のようなシステムにはなっていない。警備員などが確認する場合が多い。従業員が忘れた場合もよくあるので、仮のIDカードを発行するシステム面のフォローも必要。
・金属探知ゲート
空港などで設置されている金属探知ゲート。ホテル、モールなどでは使用しているが、工場などではほとんど使われていない。高額な上、警備員を配置する必要があるからだ。
・常駐警備
インドネシアで一般的なのは、常駐警備員の配置だ。常駐警備員の業務については、ルールを決めて文書にしておくことだ。通常は警備会社に警備員の派遣を依頼する。会社で正社員として雇ってしまうと、従業員との癒着の可能性が高まるからだ。
インドネシアの常駐警備員の業務は以下のとおり。
・防災監視
ガスボンベ、化学薬品、ボイラー、冷却装置、喫煙所などを決まった時間に巡回し、確認する。チェックシートに数値を記入するなどをすると、サボりを防ぐことができる
・防火設備巡視
消化栓、ホース、消化ノズルの有無を確認する。消火栓は半年に1度は開いて、水が出ることを確認する。スプリンクラーの確認も1年に1度は、末端部分で確認する。消化ノズルは盗まれる可能性があるので、必ず確認項目に入れておく。
・防犯監視
フェンスや塀などの破損や穴などがないか確認する。雑草が生い茂っていないか、ハシゴや踏み台がフェンス近くに置いていないかを確認する。雑草などがフェンス近くに生い茂っていると、「管理されていない」と見られ、侵入しやすいからだ。
・巡視業務
定時に、敷地内を巡回していく。不審者や不穏な動きがあるかを確認する。巡回ルートのパターンを数種類決めておき、ランダムに実行する。
・来訪者入退出管理
来場者には、面会票の記入をし、身分証明書(KTP)とお客様カードの交換をする。車両については、トランクを開け爆発物などがないかを確認する。できれば、車両下部をミラーで確認する。
部品の搬入・搬出で頻繁に入退出する業者には、入門証を発行する。
・従業員入退出管理
従業員のIDカードの確認と荷物検査をする。特に退出する場合には、社内の製品などを持ち出していないかを確認する。
・郵便・小包受領検査
郵便や小包は警備員が受け取り、不審なものは構内に持ち込まず、内線電話で連絡して取りに来てもらう。インドネシアでは、自宅に郵便物が届かない場合があるので、従業員宛の郵便物が会社に届く場合がよくある。従業員用の退出の際に、見られるように従業員用郵便受け箱を用意しておく。
・非常事態対処
非常事態の対処は、構内に不審者を入れないことだ。門を閉める、警棒などで阻止する。連絡方法も複数決めておくことだ。電話連絡、非常ボタン、無線機などだ。
全社で、非常事態が発生した場合の対応手順を決めておき。1年に1回は訓練を行うことが大切だ。警備員の初期対応、連絡方法、マネージャーや管理者の対応、日本人駐在者の対応などだ。
避難時に一番大切なのは、本日出勤している従業員の全リストだ。パソコンのデータとしてはあるが、非常時に持ち出せない場合がよくある。
・要救護者の一時的保護・車両手配等
従業員の急病、ケガが発生した場合、病院まで運搬する車両と通路の確保。救急車など誘導・通路の確保を行う。
3.警備員との付き合い方
[出典:kompas.com]
・警備員を直接雇用しない訳
警備員は警備会社と契約し派遣してもらうことだ。人件費を抑えるために最低賃金レベルで契約社員として雇用することも可能だ。しかし、あえて警備会社から派遣するのは、従業員との癒着があるからだ。
警備員も会社から給料をもらっていると、給与や待遇面で不満があるとデモなどの労働争議に加担してしまう。さらに最低賃金レベルの給与の場合には、少ない金額でもワイロを受け取ってしまうからだ。従業員があきらかに窃盗しても、お金を受け取ることで見逃してやることもある。
さらに従業員と同じ境遇であれば、従業員から嫌われたくないので、不正に対して強く言えなくなってしまうこともある。
警備会社からの派遣だと、ある程度の教育と訓練をしているのプロなので、不正に対して確固とした態度が取れるのだ。
・従業員との癒着を防止する
警備会社から派遣された警備員であっても、100%信用してはいけない。やはり人間なので、家族を持ち、人情もあり、感情が存在するからだ。警備という仕事を正しく行うために、まずは警備室や仮眠室などの環境をと整えることだ。
そして、従業員との接触をできるだけ避けるようにする。インドネシア人はすぐに仲良くなってしまうからだ。従業員と仲良くなってしまうと、警備がおろそかになるばかりか、共謀して窃盗などを意識的に見過ごしてしまうからだ。
・警備室には関係者以外の入室を禁止
従業員はもちろん外部の人を警備室に入れてはいけない。そのために出入り口を簡単に入れないような構造にしておくこと。また、部外者の待合室の設置や屋根付きのベンチなども準備しておき、警備室にいれないような工夫も必要。
・仮眠室をつくる
決まった時間には仮眠ができるようにしておく。仮眠室がない場合は、受付にいながら机で居眠りをするからだ。外部から見られると「警備員の寝ている間」を狙って、侵入する。
・食事を準備する
警備室に弁当などの食事を届け、警備員だけで食べるようにする。昼食の時間に従業員と一緒に食事をする機会があると、仲良くなってしまい、感情的に不正を見逃してしまうからだ。
・警備マニュアルを作成
定時の巡回や、業務内容とマニュアルにしておくことだ。定時巡回については、数種類のパターンを作っておき、ランダムに運用することで、通過時間を特定されにくいからだ。
・定時行動を確認
警備員の定時巡回などを管理するには、チェックシートが一般的だ。チェックシートでも、できるだけ数字を書き込むようなパターンを組み込むことだ。例えば、消火栓の圧力の記入、ボイラーの値を記入するなどだ。広い構内において厳密に巡回をしているかは、IDカードリーダーを特定の場所に設置し、通過時間を記録していくこともできる。
・毎日の結果を報告
業者や従業員の入退出の記録は、毎日必ず総務に連絡し、チェックを受けることだ。事件発生時において、犯人特定などの証拠確定に優位だからだ。ただ記入しているだけの記録簿にしてはいけない。
・警察も警備してくれる
警察にお金を支払うと、優遇措置が受けられる。よくあるのは交通関係で、白バイで先導してくれたり、ある一定の区間の道路を開けてくれるといったことも可能だ。金額についての基準はないので、警察と相談してほしい。
4.日系警備会社リスト
[出典:SECOM ,ALSOK indonesia, BASSセキュリティーサービスより]
インドネシアにある日系の警備会社は以下。
・セコム
http://www.secom.co.id
1994年インドネシアでサービスを開始。セキュリティーの総合サービス。
会社名:PT. SECOM Indonesia
所在地;ジャカルタ・スラバヤ
TEL: 0800-11-73266
・BASSセキュリティーサービス
http://ptbass-security.com
1999年8月、インドネシア・ジャカルタでサービスを開始。在インドネシア日本大使館の警備している。
会社名:PT. Barungu Aneka Sistem Sekuriti
所在地:Sentral Senayan Ⅱ, 22nd floor Jl. Asia Afrika No.8 Gelora Bung Karno, Senayan, Jakarta Pusat
TEL:0811-978-4574
・ALSOK
http://www.alsok.co.jp/company/overseas/indonesia.html
2013年2月インドネシア・ジャカルタでサービスを開始、
会社名:PT. Alsok Indonesia
所在地:Gandaia 8, 19th Floor Unit A3, Jalan Sultan Iskandar Muda, Kebayoran Lama, Jakarta
TEL: 62-21-2930-4110
まとめ
インドネシアでのビジネスを成功させるためには、まず安全を確保することが必要条件だ。すべてパーフェクトにすることはできないが、警備員を配置することで抑止力となり、ある程度は盗難や火災、テロなどを防ぐことができる。
警備についても、警備会社に任せるのではなく、駐在者が警備に対する正しい知識を持ち予見することで、会社を守ることができるのだ。
この記事を参考に、安全を確保しつつ、ビジネスを成長させてほしい。