インドネシアに工場進出する企業は、当然その事業の利益を追求し、そして上げ続けることを至上命題にしている。
ところが、その思わくとは裏腹に、進出した当地では現地マネージャーや管理者がやるべきことをやっておらず、生産や品質の改善がほとんど進んでいない。これが実態である。
そしてインドネシアの実態と日本本社からの要求とのギャップに、赴任してきた新たな担当者は悩まされることになる。私が9年間の駐在経験から学び、実践した現地管理者をうまく働かせ、利益を生み出す工場にするための8つコツを厳選した。
今回は前回に引き続き(その2)をお伝えする。
日本の本社の担当者と赴任する担当者が是非とも共通の認識として持ってもらいたいと言えるものだ。インドネシア工場をうまく運営させるために、詳細も含め、お互いによく確認をしてほしい。
(その1)
1. 日本の防災知識を徹底的に投下する
2. 従業員の不正は予防できる
3. ストライキを起こさせない意外な方法
4. 管理者の指導は小学生の先生のように
(その2)
5. 毎朝30分の掃除が生産性を上げる
6. リーダー養成で徹底的に生産トラブルを減らす
7. イスラム教の理解は必須
8. 現地人に絶対の信頼をおかれるインドネシア語
5. 毎朝30分の掃除が生産性を上げる

最初にやることは、
・全員で
・毎朝
・就業時間内に
・30分間掃除をする
ことです。掃除といっても、畳1畳ぐらいの狭い場所を決めて、徹底的に磨きあげる。ルールとしては、おしゃべりをしながらやる。
ここで大切なのは、掃除は「就業時間内」でやることだ。「掃除も仕事」という感覚を持ってもらうためだ。私はある時、「なぜ従業員が掃除をしないのか?」と不思議に思い、聞いたことがある。
「私たちは高卒だから掃除はしない。掃除は中卒以下のお手伝いさんがやることだから」
という答えだったのだ。つまり、掃除は自分の仕事ではない。ましてや、時間外のボランティアで掃除をすることは彼らにとっては非常識なのだ。だから給料を払っている就業時間内であれば、「いやいや」でも掃除をしなければならないからだ。
日本人赴任者も一緒にやることが必要だ。従業員とも話をしながら、プライベートや仕事の事、どんなこと考えているのか、今日の調子はどうかなども分かる。従業員からは「日本人は私たちのことを理解してくれている」とういう感覚を持ってもらえるからだ。
日本人にとってはごく普通のことがインドネシアでは全く通用しない。例えば、
・就業時間に遅れてくる
・言われたことだけしかやらない
・床にゴミが落ちていても拾わない
・整理整頓ができない
・上司である日本人に報告・連絡・相談がまったくない
などだ。
特に時間にルーズなことは生産現場においては致命傷となってしまう。その結果は全て生産数量に現れる。製造ラインで一人が遅れたために生産が始まらないことが多発する。作業者を管理するマネージャークラスさえも、時間に遅れてくることもある。
すべては掃除から始まるのです。
日本人も含め、全員が同時に、時間どうりに掃除を始めれば「同僚に申し訳ない」という気持ちが芽生える。工場がキレイになれば、整理整頓も加速的に進むのです。
そして、インドネシアにおいても工場は、「会社のショールーム」にすることが、次の売り上げに繋がっていくのだ。
6. リーダー養成で徹底的に生産トラブルを減らす

生産工場では、最終的に管理状態がそのまま生産数量に現れる。
赴任者は管理者を育成することが最も大事なことだ。生産トラブルを未然に防ぎ、粛々と生産できるようにするのが日本人赴任者の役目だ。そのため有効的な手段は、やはり現場で教えることだ。
毎日のトラブルには、なんらかの記録をする。私が経験上、一番有効だったのはビデオに撮ることだ。
ビデオ担当を決め、トラブルが発生してから現場に行き、現物を確認して、原因を調べて、応急対策と恒久的な対策をする。この一連の流れをビデオで撮影し、他の管理者に繰り返し見せる。管理者は、実際に現場で起きた事なので真剣になるし、2度と同じ間違いをしなくなる。
私が経験した生産トラブルには、品質、人員的なトラブル、設備、と大きく3つがある。それぞれ見ておこう。
・品質トラブル
生産現場で基準となるのが、手順書や標準作業指導書などのマニュアルだ。部品や材料の受け入れ検査から始まり、加工・組立・出荷検査など多くのマニュアルがある。そのマニュアルどうりにやられていないことだ。そして、マニュアルが正しい作業ができるように”改訂されていない”のが原因だ。
結果として「◯◯さんからこう言われた」「こう教わった」など、マニュアルがあるにもかかわらず、現場では無視されてしまうのだ。不具合品や不具合品と思われるものは、日本人赴任者が判断することになり、判断するまでの間は生産がストップすることもある。
私は生産技術リーダーとして、すべての作業手順書を確認した。インドネシア語で書かれているために最初は理解するのに時間がかかったが、文章が定型化されているため、だんだんと理解が早くなったし、間違いも指摘できるようになっていった。
・人員的なトラブル
ラインの人員配置表を生産管理が、始業前10分までに作成し、作業者に確認してもらうことだ。
その配置表として、大きなボードを作り、名札方式にして、
・ライン名
・工程名
・リーダー名
・作業者名
・必要なスキルと作業者のスキル
・欠勤者
を入れることだ。
生産開始時刻になっても「このラインは人がいないため稼働できない」ということを防ぐためだ。
作成当初は、日本人が立ち会って使い方を指導する。特に、急ぎで作るべきものと、まだ納期に余裕があるものの判断をしなければならない。
この人員配置表は従業員入り口付近に設置した。従業員は出社すると自分の名札を探し、今日作業をするライン確認し、裏返しにする。約90%は出勤した時点で、作業者は今日どのラインで仕事をするのかがわかる。リーダーは今日生産するものは何で、作業者は何人でやるかということがすぐわかるようになった。
人事関係のリーダーも人員配置表と出勤表を照らし合わせるためにも使っていた。
・設備トラブル
工場全体の停電だけでなく、エアコンの不具合で冷房が効かない、圧縮エアの結露によりエアから水が噴き出す、といったトラブルも発生する。また、ライン別の設備故障もあり、現地のエンジニアでは修理に時間がかかったり、修理できない場合もある。
さらに、作業効率を高めるためという理由で、勝手に安全装置を外す、といったことも起きる。
私は、現地技術者を数名集め、技術者の基本を座学と実践の両方から教えていった。例えば、
・材料
・ネジ
・機械要素(軸、軸受け、キーなど)
・歯車
・バネ
・シール
・モータ
・油圧・空圧機器
・センサ
・寸法と公差
・はめあい
・表面粗さ
・力・応力・剛性
・モーメント
・工具
・機械加工
・電気配線
・設計図(読み方、書き方)
などだ。
以上は機械関係の技術者としての内容であるが、それぞれの業種に合わせて基本的な技術を教えることだ。
7. イスラム教の理解は必須

赴任者はイスラム教について学び、理解を深めることが重要だ。そのため、イスラム教徒やイスラム教指導者と話す機会を持つことだ。
私自身も、インドネシア国内で有名なイスラム教指導者であるユスフ・マンスール氏(Yusuf Mansur)と話したことがある。彼は、非常にまじめで、常識的な考えをもっている。日本人が異端だと感じるのは、イスラム教への理解が不足しているからだ。
赴任者はイスラム教への理解が浅く、イスラム教徒を卑下しがちだ。例えば、1日5回のお祈りに対しても「お祈りよりも仕事をしろ」、「豚肉はおいしいぞ」、「断食は体に悪い」という内容の事を言ってしまう傾向がある。
子供の頃からイスラムに親しみ、学校で宗教の授業を受けた人にとってみれば、ごく当たり前にアッラーの神を信じて実践しているだけなのだ。
幸運なことに、インドネシアはイスラム教の「穏健派」が大多数をしめるので、赴任者はイスラムという異文化を知り、理解し、受け入れる「人間としての器の大きさ」が必要になるのだ。
8. 現地人に絶対の信頼をおかれるインドネシア語
[インドネシア語は信頼のために]
単語レベルだけで良いので、インドネシア語を知ることだ。それも現場で使われている単語だけでいい。手順書や品質記録などに書かれている単語から覚えることによって、会議の中で聞こえる単語が話しの流れで「多分こんなことを言っている」と予想がつくからだ。
私が赴任したばかりの頃は、作業手順書を辞書を引きながら読んでいった。すると、疑問がたくさんでてくる。
・この意味はどういうことなのか?
・なぜこの表現を使っているのか?
・作業者はこれで正しい作業ができるのか?
などだ。
それを通訳と一緒に現場に行って、しつこく聞いていく。すると通訳も「これはおかしいですね」ということがたくさんあることに気がつく。
インドネシア人を含めた会議などは、どうしても通訳を通して伝えることになる。日本人は、本当に正しく内容が伝わっているのかが不安になる。
「会議で言ったことがやられてないない」「違う解釈をして品質問題が発生した」などが続くと、通訳者を責めたくなる。
ある品質会議で、日本人の品質担当者があまりに不安に思って「本当に正しく内容を伝えているのか?」と少し強い口調で通訳者を責めたところ、その通訳者が怒って「そう思うんだったら、俺はいらない!」といって会議室が出ていったしまったことがある。
多少でもインドネシア語を理解している私から見ると、きちんと通訳してたのですが、不安に感じる赴任者が多くいるのだ。
日本人がインドネシア語を理解しようとしている姿は、「私たちに歩み寄っている」ということを気づかせ、その日本人を信頼する大事な要素になるのだ。インドネシア語を学ぶことは、流暢に話すことではなく、信頼を得るために学ぶのだ。
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まとめ
インドネシア赴任者の一番大切で、重要な仕事は「管理者の育成」だ。その現地管理者をうまく動かすことさえできれば、改善が進み、生産性をアップできる。
そのためのキーワードは「信頼関係」ということだ。赴任者と従業員とがお互いに信頼し、信頼される関係を築いていくことが、インドネシア工場の発展につながっていくのだ。
ぜひこれから進出する中小企業もこの記事を参考にして、現地管理者を育て上げ、利益の上がる工場にしていってほしい。
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