インドネシアに工場進出する企業は、当然その事業の利益を追求し、そして上げ続けることを至上命題にしている。
ところが、その思わくとは裏腹に、進出した当地では現地マネージャーや管理者がやるべきことをやっておらず、生産や品質の改善がほとんど進んでいない。これが実態である。

そしてインドネシアの実態と日本本社からの要求とのギャップに、赴任してきた新たな担当者は悩まされることになる。私が9年間の駐在経験から学び、実践した現地管理者をうまく働かせ、利益を生み出す工場にするための8つコツを厳選した。

これは、日本の本社の担当者と赴任する担当者が是非とも共通の認識として持ってもらいたいと言えるものだ。
インドネシア工場をうまく運営させるために、詳細も含め、お互いによく確認をしてほしい。

(その1)
1. 日本の防災知識を徹底的に投下する
2. 従業員の不正は予防できる
3. ストライキを起こさせない意外な方法
4. 管理者の指導は小学生の先生のように

(その2)
5. 毎朝30分の掃除が生産性を上げる
6. リーダー養成で徹底的に生産トラブルを減らす
7. イスラム教の理解は必須
8. 現地人に絶対の信頼をおかれるインドネシア語

1. 日本の防災知識を徹底的に投下する

ジャカルタ洪水
ジャカルタ洪水[出典:Kompas.com]

災害予防について日本は世界の中でもかなり進んでいる。インドネシアでは毎年のように洪水があるし、大きな地震も発生している。洪水や地震、火災の防災知識は「日本レベル」で教えることが大事だ。

以下の災害について、私が経験から学んだことをご紹介する。

1. 洪水
2. 地震
3. 火災

1. 洪水

洪水対策はインドネシアにとっては日常的に発生し、生産や物流に直接関係する。
洪水対策には以下の3つがあげられる。

・ 工場の立地

工業団地内では、団地の管理棟の近くの場所を確保するとよい。工業団地建設業者はどこが一番高い位置にあり、水に浸からないかを調べてあるからだ。また、11月~3月の雨季の時期に見学し、川の水位、排水の設備、周辺の水の溜まり具合をチェックする。

・物流の道のり

工場が浸水などの被害にあわなくても、まわりの道路が冠水して車両が通れなくなる場合がある。だから、複数の物流経路があることを確認しておくことだ。一番簡単な方法は住民に聞くことだ。どの地域が低い、どの道がが冠水したことがあるか、などを聞くことだ。

また、従業員の送迎バスの経路も地図上に記入し、把握しておく。作業者がいなくては生産活動ができなくなるからだ。

・避難

1階が浸水した場合を想定し、2階部分には一時的に設備や製品、原材料などを置けるスペースを確保しておくことだ。また、全従業員が2日程度過ごせる場所と、非常食を備えておくこともオススメする。避難訓練も毎年行い、非常食を食べることも訓練の一部としてやることだ。これは、従業員にとっても安心感を与え、会社への信頼を持ってもらえるのだ。

私の経験では、最初の避難訓練はほとんどうまくいかなかった。例えば、

・総務担当が当日出勤した社員のリストを作っていない
・グループ毎の点呼ができない
・避難者の確認後にだれに報告すればわからない
・避難から全員の無事を確認するための時間を計っていない
・非常持出書類を持ってきていない
・避難訓練後のライン再開のルールが決まっていない
・非常灯・誘導灯が点灯していない
などだ。

避難訓練は行うことも大事だか、何が足りないのかを調べ、改善することこそ意義があるのだ。現場リーダーなどの管理者には必ず教えることだ。

2. 地震

地震対策はまず従業員の命を守るために、初期行動や避難経路、避難場所を決めておく。従業員に教えるには、ビデオが有効的だ。日本で起こった地震、津波や洪水のビデオと、対策を教えているビデオを見せると理解が早まるからだ。

地震に慣れていないため、従業員の数人がパニックにおちいり失神する場合もあった。彼女たちを運ぶための「担架」も備えておくべきことが判明したし、何度も訓練をすることで失神する従業員はいなくなっていった。

建築基準法はインドネシアにもあるが、地震対策についてはほとんどない。インドネシアの工場建設で一般的なのが「吊り天井」だ。しかし、これは地震の時には凶器に変わる。

私が経験した震度3程度の地震でも、吊り天井のフレームが変形して、2メートル四方のプレートが落ちてきた。幸いに誰もケガをしなかったが、もっと強い地震が起きたらすべての天井が落ちるかもしれないと恐怖を感じた。

3. 火災

火災については、消化訓練で消火栓などのチェックをする。私の経験では消火栓のなかの「ノズル」が紛失していたことがあった。金属として高く売れるので盗まれる可能性があるからだ。

火災予防として次のことをチェックしておこう。

・火災原因1位:コンセントと漏電のチェック:
・火災原因2位:喫煙場所を決めて、ペットボトルの水を置いておく
・火災原因3位:プロパンなどのガス漏れ:

・消化設備が動くかどうか、ホースに穴などが空いていないか、ノズルがあるかどうか
・敷地と道路に燃えやすいダンボールなどがあるか
・火や火花、電熱器、揮発性ガスなど使用する工程
・自然発火物質やレンズの保管方法
・灯油、ガソリンなど危険物の取扱い
・その他、業界ごとに規定されている確認項目

工場での火災発生は中小企業としては致命的だ。私が勤務していた工業団地で、プラスチック工場が全焼する火災が起きた。結局、その企業は撤退していった。原因ははっきりしないが、放火の疑いもあるということだった。

2015年7月、ジャカルタ郊外の工業団地で、日系化粧品メーカであるマンダムの工場で爆発と火災が発生し、死者5人を出す惨事となった。原因ははっきりしていないが、ガス爆発と見られている。つまり、火災は他人事ではないということだ。

災害対策については「日本レベル」に近づけ、日本の工場で行われている知恵を生かし、インドネシアでも実施することが必要だ。設備を整え、訓練し、教育を続けていくことが工場を存続させるのだ。

2. 従業員の不正は予防できる

従業員の不正防止

窃盗や収賄などの不正は、「あって当たり前」と思うことで、事前の予防策を立てられる。
以前、勤務していた工場では以下のような対策をしていた。

・監視カメラの設置
・ロッカーの鍵の管理
・机の鍵の管理
・パソコンのパスワード管理
・搬入、搬出車両の確認
・納入業者と従業員の血縁関係
・納入業者への聞き取り調査
・領収書に書かれた業者への電話確認
・車両の走行距離とガソリン消費量の比較

それぞれ見ていこう。

・監視カメラの設置

製品や設備の一部を無断でトラックで運び出したことがあった。その対策として、工場の出入り口、出荷のトラックのナンバーなどが特定できるようにカメラを設置した。トラック業者と従業員が共謀してやったことだった。

インドネシアにおいての代表的な日系セキュリティー会社は、セコム、ALSOK、BASSセキュリティーの3社だ。いずれも、オンラインセキュリティー、監視カメラのサービスをおこなっている。24時間稼働の工場は、金庫と重要書類のある事務所の一部をオンラインシステムにし、それ以外を監視カメラで警備している。

詳細は窃盗、放火、デモ~インドネシアで不測の事態から会社を守る警備方法を読んで欲しい。

監視カメラについては、工場長などのデスク近くにモニターを置き、2週間程度録画できるハードディスクを備えることをオススメする。モニターを確認するのは日本人だ。

日本人だけでは、24時間体制でモニターを見続けることはできないが、予防としては十分だ。また、現地マネジャーには見せておき、カメラは「ダミーではなく、本当に撮影している」という社内にウワサを広めてもらうことだ。しかし、あまり頻繁に見せないようにすることも大事だ。現地従業員に映像の範囲を特定されると、その死角を狙って不正をしようとするからだ。

設置場所としは、通用門付近、従業員出入り口、出荷場所などの監視を重点にしている。カメラ10台で予算は85万円ぐらいだ。詳細は各警備会社に問い合わせてほしい。

・ロッカーの鍵の管理

従業員の携帯電話の紛失事件があり、その原因が「同じ鍵で違うロッカーを開けらえる」ということだった。違うメーカーのロッカーを設置して、他のロッカーは開かないようにした。従業員リストには鍵番号を記載し、退職時には複製した鍵も回収した。

インドネシアは鍵社会だ。従業員に聞いてみればわかるが、ほとんどの人が鍵をジャラジャラと持っている。また、スペアキーを作ってくれる地元の店は数多くある。そして、鍵の紛失などで開かない場合は、フレーム自体を壊して中のものを取り出すの常だ。私が最初に確認した時には、ロッカーの約2割は鍵が壊されていた。

私がオススメする方法は、毎月従業員ロッカーの鍵をすこしづつ、違う種類の鍵に変えていくことだ。例えば、付属の鍵から南京錠に変更する、南京錠からカード式に変更するなどだ。

・机の鍵の管理

すべての机に管理番号をつけ、スペアキーは日本人が保管する。退職時にはもちろん返却してもらう。

・パソコンのパスワード管理

パソコン管理者を決め、ログインパスワードを設定して使用する。できるだけパソコンは共同に使うようにする。パソコン管理者は巡回しながら、パスワードの確認や自分の子供などのデスクトップ画像の削除、ウィルスチェックなどを行なうことだ。

・搬入、搬出車両の確認

警備員には、搬入、搬出車両のナンバーと身分証明書の番号を記入するようにする。頻繁に訪れる業者には、通行証を発行する。ただ、ナンバープレートは道端でも売っているため、監視カメラとの両方で特定できるようにしておくことだ。

・納入業者と従業員の血縁関係

インドネシアの場合は、名前があるが、苗字はファミリーネームでない場合が多い。納入業者を選定する場合には、血縁関係を調べることも重要だ。納入業者は現地マネジャー管理者の家族や親族の場合がよくある。また、兄弟や家族が従業員になっている場合や結婚している場合があるので、1年に1回は調査する必要がある。

・納入業者への聞き取り調査

日本人赴任者が、納入業者に出向き、社員に裏金を払って便宜をはかっているかどうか、社員との癒着がないかどうかを調べる。その時のポイントは、毎月の納入金額リストを持って、通訳と2人だけで訪問する。そして、相手の表情をじっと観察し、ウソをついていないかを判断することだ。

そして、納入業社との関係が深そうな社員の名前を出し、同じ趣味のグループや、イスラム教のモスクでの接触があるかどうかを聞いていく。また、血縁関係などを聞くことも有効だ。最初はわかりにくいが、数回やるとその雰囲気はわかってくる。

そして、怪しいと思ったら、担当社員と話しをしてみる。すると実態が見えてくる。
私も経験があるが、2~3回業社に訪問すると対応の違いがわかってくる。弊社の方針として「裏金は通じない」とわかってもらうことが大切なのだ。

・領収書に書かれた業者への電話確認

購入品の領収書、医院の領収書などに書いてある電話番号にかけてみる。すると、使われていない番号だったり、全く違うお店の場合がある。病院の治療については、あまりにも不正が多くあったので、地域毎に会社が指定した病院での診察を義務づけた。インドネシアの場合、「領収書は売っている」ということを知る必要がある。

・車両の走行距離とガソリン消費量の比較

会社専属のドライバーは毎日のようにガソリンスタンドに行く。そしてスタンドの店員と仲良くなってしまう。対策としては、ガソリンの消費量と走行距離を記録させて、リッター何キロ走ったかを計算しておくことだ。以前乗っていてた車の走行メータがアナログだったので、メーターを逆回転させている事件があった。

3. ストライキを起こさせない意外な方法

ストライキ
ストライキ[出典:Kompas.com]

私が経験したストライキを起こさせない最も有効的な方法は、従業員と「1対1」で「3時間以上」かけてじっくり話を聞くことだ。もちろん通訳をいれてもよい。話の内容は以下のようなことだ。

・最近の調子はどうか?
・社内で親しい友人はいるか?
・家族について(両親、兄弟、妻や夫、子供、誕生日や結婚記念日など)
・家族の収入と支出(副業、配偶者の収入、学校などの支出)
・借金の金額とどこから借りているか?

・自社の給料について
・仕事内容について
・いまの仕事で不満はあるか?
・会社に改善してもらいたいことは?
・今の生活全般で不安なことはあるか?
・将来においてもずっとここで働きたいと思うか?
・あなたの夢は何か?

話し合いの時に注意するのは、アドバイスするのではなく、話を聞くことに90%以上の時間を使うことだ。

これだけの時間を使って話を聞くと、ウソは付けないし、ほとんどの人が本音を話してくれる。インドネシア人は、誰にも話すことができず、自分で悩みを抱え込んいることが多いのだが、それを引き出してあげるのだ。

対1で話を聞いてあげると、「会社は私のことを思ってくれている」という信頼が生まれ、ストライキには発展しないのだ。会社としてできることはすぐやることを約束し、できないことはできない理由をはっきりと伝えることだ。

日本人は、ストライキはそう簡単には起こらないと思っているが、ストライキやデモなどの労働争議がインドネシア最大のリスクだ。

どんなに素晴らしい製品やサービスを提供し、ビジネスパートナーに恵まれたとしても、従業員のとの対立があり、ストライキが起きてしまったら、インドネシアでビジネスができなくなる。

ストライキが起こると、工場の生産が完全にストップする。社員ではない労働組合の血気盛んな若者がバイクなどで工場を取り囲み、ハンドマイクで罵詈雑言を投げかける。工場内に侵入しパソコンや、完成品などの物品を盗もうとする。阻止しようとする日本人にとっては命の危険さえあるのだ。

工場での生産がストップするのは、数日間ではない。労働組合員たちは、会社の業績は関係なく自分たちが納得いくような回答を得るまで、取り囲んだままだ。理論は通じない。2倍や3倍の給料アップを要求してくるのだ。

私はこの1対1の話し合いで、ストライキを回避した経験がある。ある従業員の解雇がきっかけで、有志が集まり、組合を結成し、ストライキをすると予告してきたのだ。それを本社に伝えると、この1対1の対話をして「従業員の心をつかめ」という指示だった。

ストライキに参加するつもりのない従業員から順番に対話を始めていくと、たくさんのことがわかってきたのだ。

給料への不満もあるが、多くの従業員が感じているのは「将来に対しての不安」だったのだ。会社としては、「しっかりと働いてくれれれば解雇はしないし、ずっと働いてもらいたい」と伝えた。

すぐにできる要求に対しては、可能な限り実行した。例えば、

・手洗い場を広くし、カランの数を増やす
・お金の支援をする共済をつくる
・日本語教室を開く
・日本人との食事会をおこなう

・古くなった制服や靴を交換する
・ロッカーの修理や新設をする
・昼食の業社選定を従業員による投票制にする
・送迎バスの運行スケジュールをはっきりさせる
・創立記念パーティーでの余興をコンテスト形式にする
などだ。

このような取り組みのおかげで、多くの従業員から信頼を得て、ストライキをして交渉する意味がなくなってしまったのだ。6ヶ月後には組合は解散し、ストライキを回避できたのだ。

4. 管理者の指導は小学生の先生のように

小学校の先生のように

赴任者は管理者を育てることが最大の業務だ。教える時には「小学校低学年の子供に教えている」という先生のような感覚をもつことだ。事故やケガなどに直結する危険な行為についてはかなり厳しく叱るし、考え方についてはできるだけやさしく、単純化して教えるのだ。

管理者は問題の解決方法、考え方、管理者としての役目についてじっくり教える。仕事の成果として管理者や作業員の給与や利益に直接つながっていることを示すことだ。「会社の利益が増えると社員の収入も増える」というだけでは、彼らはまったく感情が動かない。

毎年、7%以上の最低賃金が上がるので、会社の業績が上がっても上がらなくても給料は自動的に上がってしまうからだ。給与をアップすることではなく、ライン別やプロジェクト毎に、表彰やプレゼントをあげることで、モチベーションを維持できる。

私の経験で有効的なのは、「日本人との食事会」だ。成績の良かったグループと一緒に、夕食を食べに行く。仕事から離れた食事会は、会社ではみせない姿がみえたり、同じ仲間として接してくれる。

日本で言うところの「飲みニュケーション」だ。この信頼関係が仕事の能率や出来高に影響してくるのだ。

逆に「クビにするぞ」とか「減給するぞ」などの恐怖心を与えて仕事をやらせるとIQが下がり、理論的な判断が出来なくなり、多くの人は日本人に対して敵対心をもってしまう。

赴任者が一番悩みが多いのは、管理者への指導だ。現地の管理者は数人から数十人のリーダーであり、作業者を指導する立場だ。生産数が足りなかったり、不良品が発生しても言い訳が多く、管理者自身が責任を取ろうとはしない。作業者のせいにしたり、会社のせいにしたりすることが非常に多くあるからだ。

管理者は生産性を上げる努力や改善を自ら進んでやることはほぼない。小学生だと思えば、「どうしたら小学生に理解し、行動してもらえるだろう」と工夫するようになる。日本で同じ作業がある場合には、そのビデオを見せ、マネさせることはかなり有効だ。

その2に続く・・・