工場で働く従業員にとって、会社での一番の楽しみは食事だ。従業員のモチベーションに直接影響する昼食を、総務担当に任せきりせず、日本人も積極的に関わることだ。
駐在9年の経験から得た社員食堂とその活用方法について詳しくご紹介する。ぜひ、あなたの工場でも試して、生産性向上を目指してほしい。
1.社員食堂に導入すべきもの
2.社員食堂のメニュー
3.ケータリング業者
4.タイムチャート
5.断食月の対応
6.昼休み勉強会
1.社員食堂に導入すべきもの
[社員食堂レイアウト例]
社員食堂に一番求められるものは、時間だ。時間をより効率的にするため動線のよってレイアウトすることだ。
レイアウト例は、カフェテリア方式で動線を示した。
動線をまず意識するのは、昼休みの時間が短いし、同時の多くの従業員が殺到するからだ。7分以内にすべての従業員が食べ始められるような配置にすること。必ず当番制で管理者を数名配置し、問題の解決にあたる。
私が経験した問題は、
・食事数が足りない
・ディスペンサーの水が足りない
・おかずが1つ足りない
・ご飯がまだ芯がある
・何か変な味がする
こういった問題が頻繁にあるからだ。
管理者には、社員食堂では「従業員がお客様」という考えで対応することを教えておく。
・水&お湯
インドネシアでは水道からの生水は飲まないので、ウォーターディスペンサーを使用するのが一般的。必ず冷水と温水の両方が出るようにすること。コストダウンのために、以下のような浄水器を設置するのも良い方法だ。
私も以前赴任していた工場では、浄水器を設置した。浄水器は従業員から見える位置に配置し、「この水は飲んでも大丈夫だ」ということをアピールした。さらに、水質検査証を貼って証明した。
・トクラスホームページ
http://id.toclas.co.jp/en/
旧ヤマハリビングテックで、浄水器事業はヤマハ発動機から2010年に譲り受けた。販売は2013年より業務提携したインドネシア住友林業。
・手洗い場
従業員には、食べる前には手を洗うことを指導する。食べた後は、手洗いと歯磨きをすることも指導すること。石鹸はちいさな網にいれて、カランに吊るしておく。(紛失防止のため)
・冷蔵庫
熱帯のインドネシアでは食品が腐りやすい。フルーツなどを入れておく冷蔵庫または保冷庫が必要。
・一時保管棚
一度に多くの従業員が食事をするために、トレイにおかずを入れて渡す。その準備として一時保管用の棚が必要になる。ハエ、蚊、ゴキブリなどの侵入がないように網などを被せ保護することだ。
・清掃
食堂の清掃はケータリング業者に任せることが多い。しかし、掃除に対する意識が異なるため日本人からみると不十分がところが多くある。掃除に関しはケータリング業者と協議し、品質を上げることだ。特にインドネシアでは油を使った料理が多く、床、テーブルの上とも油よごれが目立つ。月に1回は、清掃専門会社に依頼し大掃除をすることだ。
・売店
コーヒーやジュース、お菓子、インスタントラーメン、生理用品などを販売する売店を食堂のコーナーに設置する。工業団地は敷地が広く、屋台などの店が近くにないために、軽食や日用雑貨を扱う売店は非常に便利だ。私も休憩時間にはよく売店でコーヒー購入し、飲んでいた。
・社員食堂の場所は屋外に
インドネシアの多くの食堂は、屋外かオープンテラス構造になっている。エアコンなどの設置が必要なく、電気代がかからない、匂いなどが充満せず快適に食事ができる、という理由だ。ただ、鳥インフルエンザの影響があるので、防護網などの設置が必要な場合もある。
・喫煙所
食堂が屋外の場合には、喫煙コーナーを設けることだ。インドネシアの男性は以外と喫煙者が多いからだ。
・雰囲気(音楽)
従業員にとって、会社での楽しみの一つが食事の時間なので、できるだけリラックスできる環境を作って上げることだ。リフレッシュすることで、午後の仕事の効率がアップするからだ。
・コップ置き場
人数が少ない場合には、食堂に個人用の棚をつくり、コップや歯ブラシなどを置くスペースを確保する。人数が多くなった場合には、ロッカーに保管してもらう。
2.社員食堂のメニュー
食事メニュー[出典:daunsingkong.blogspot.com]
・食中毒防止
食堂でまず注意することは、食中毒の防止だ。熱帯のインドネシアでは食べ物が腐りやすい。また、ハエや蚊、ゴキブリなどが多く発生し、病原菌を運んでくる。
食中毒を防止するには、以下を注意。
・ケータリング業者の手洗い
・食品に触る場合には、ビニール手袋を使用
・マスク・髪の毛を覆うものを使用
・生ものは低温で保管
・厨房を清潔に保つ
・ふきん、タオルなどは消毒済みのものを使う
・残飯の処理は密閉容器にいれる
・食器は十分に洗浄する
・テーブルの上も清潔にする
・食品は十分に加熱処理する
・サンプルメニューを表示、保管
従業員が選べるようにすること、食中毒が発生して場合の原因追求のためにサンプルを表示・保管する。
・お弁当(警備員、ドライバー)
警備員とドライバーについては、お弁当形式にして、警備室、ドライバー控え室に持っていく。
・食事メニューで必ず必要な3つ
1.ごはん
従業員が好きな量だけ取れるようにする。インドネシアの場合には主食がごはんで、好きな人も多い。ケータリング業者によっても差があるが、値段の差は”ごはんの質”にかかっている。あまりにも安いものは、石が混じっていたり、異物が混入している場合がある。よくケータリング業者と打ち合わせておくことだ。
2.サンバル
インドネシア人にとって欠かせない調味料で、自由に取れるようにする。サンバルとごはんだけで食べる人もいるくらいだ。サンバルにも多種あり、それぞれに辛さや味わいが違うので、2種類以上準備する。
3.クルプーク
クルクープ[出典:dzenyogapravita.indonetwork.co.id]
米粉を揚げたセンベイのようなもの。パリッとしていないとダメなので、直前にビニール袋から出して各人に渡す。ごはんと一緒に食べることが多い。
・その他の注意点
・ハラル認証
イスラム教徒に配慮し、ハラル認証を受けたものがよい。ただ、ハラル認証されている業者が少なく値段が高くなるので従業員と協議して決めることだ。
2013年、インドネシア全土にあるチェーン店の「Soraria」がハラル認証されていないことが発覚し客足が遠のいた。その後ハラル認証をしたという経緯がある。
http://www.antaranews.com/berita/407845/restoran-solaria-kantongi-sertifikat-halal-mui
・野菜を多く
野菜を多くとってもらうようにする。揚げ物が多いので、バランスのとれた食事にすること。ビタミン剤を支給する会社もある。
3.ケータリング業者
ケータリング業者[出典:rumahanbisnis.com]
少人数の場合は、仕出し弁当のようなお弁当形式だ。数十人以上になるとまとめて持ってきて、食堂でトレイに出すというカフェテリア方式になる。
ケータリング業者に関する注意点は以下。
・ケータリング会社の選択
コンペ方式にする。3社ぐらいを選び、コンペの日を決めて、試食会を従業員の代表に食べてもらって評価をする。 一人あたりの金額を決め、点数表をつけて、社員全員に公表する。公平に評価しているということをアピールし、総務部や特定の人が”わいろ”をもらって決めたのではないことを証明するためだ。
一人あたりの値段の目安は、Rp6,000 〜 Rp12,000が相場。
・食器洗い・後かたずけ
おかずを取り分けるトレイなどは、洗剤を使って洗浄し、すすぎをしておくことを指導する。業者によっては不十分なところが多いので、洗い方、すすぎ方をマニュアルにして指導する。食器洗浄機を使用する場合もある。残飯については、ふたのついた容器に入れて持ち帰ってもらう。
・床の掃除
床の清掃が不十分な場合が多い。掃除の方法をマニュアルにして、管理者が確認する。インドネシアの場合には油ものが多く、床が滑りやすくなる。月に1度は、清掃専門の業者により大掃除をすることだ。
・テーブル
テーブルのシートは1年に1回は新しいものに交換する。多くの場合、テーブルが材木でつくられており、テーブルのシートがピニール素材なので、劣化するからだ。
・ケータリング会社への訪問
3ヶ月に1度は、ケータリング会社に訪問し、調理の衛生状態を確認する。行ってみるとわかるが、日本の衛生状態とは比較できないぐらいの衛生状態なのだ。業者に対しては必ず、改善要求をすることだ。
食品は床に置かない、容器の洗浄方法、従業員の手洗いや制服などの衛生管理、残飯の処理方法などを中心に、チェックリストをつくり、写真をとって確認する。改善がされない場合には、契約を打ち切ることを示していく。厳しい要求かもしれないが、従業員が食中毒になったら、生産に直接影響するからだ。
4.タイムチャート
タイムチャート[出典:sci-5.com]
食堂の収容人数に対して、従業員の数が多い場合は、2つ以上のグループに分けて時間差で食事をしてもらう。その場合には、お祈りの時間帯に注意することだ。ほとんどが昼食後にお祈りをするからだ。
・インドネシアの5回のお祈り時間帯
1回目:スブ[shubuh](朝4時40分ごろ、空が白々としてから日の出前におこなう早朝のお祈り)
2回目:ズフール[Dzuhur](12時頃、太陽が一番高いところから傾いたときからアサルの始まりまでにおこなうお祈り)
3回目:アサル[Ashr](午後3時20分頃、立っている人の影が2倍以上のなったときから日が沈むまでのお祈り)
4回目: マグリッブ[maghrib](夕方6時頃、日が沈んだときからイシャまでにおこなうお祈り)
5回目:イシャ[Isya](夜7時頃、完全に真っ暗になったときから、空が白々とするまでにおこなうお祈り)
[出典:wikipedia]
詳細の時間は以下を参考にする。年月日、地域によって変わってくる。
https://www.jadwalsholat.org
5.断食月の対応

断食月では、断食明けの午後6時頃の合わせて食事を提供することだ。イスラム教の従業員は、この時間を本当に待ち望んでいるからだ。可能な限りその時間ぴったりになるように休憩時間を決め、食事がすぐできるように準備する。
また、断食中でも昼食を食べる女子従業員がいる。生理中は断食をすることができないためだ。非イスラム教の人もいるので、朝の出勤時に予約をしておき、食事を準備しておく。就業中に気分が悪くなり、断食をしなくなる人もよくあるので、昼食は余分に注文しておくことも大事だ。断食中の昼食の時間は短縮して帰宅の時間を早めておく。断食明けの食事が家族と一緒にできるようにする配慮をしておくこと。
断食中では食事を出さない分を、食事手当として支給しているところもある。従業員代表と話し合って、就業規則に記入しておくことでトラブルを防ぐことができる。
6.昼休み勉強会
勉強会[出典:Universitas Indonesia]
現場で作業する作業員には、なかなか勉強をする時間が取れないのが現状だ。そのため、毎日昼食時に、10分ほどのビデオで勉強会を実施する。勉強する内容は、会社の方針、規則、専門的な知識などだ。自由参加とするが、参加者にはスタンプを捺印する。スタンプ数に応じて、ボーナスやレバラン手当、昇給の評価にする。
つまり、頑張って勉強した人が評価が高くなり、給料が上がるというシステムだ。
現実的には、最低賃金レベルの作業者の差をつける条件があまりない。出勤率、遅刻の回数、生産ラインごとの評価ぐらいしかないからだ。つまり「休まず、遅れず、いるだけ」で評価されてしまう。もちろん大事なことだが、これでは横並びになってしまい、モチベーションアップにはつながらない。
昼休み勉強会のシステムだと、10分出席すれば良いだけなのでだれでも可能だ。さらに勉強会によって会社の価値観を共有でき、働くことの喜びを感じてもらい、会社に忠誠心もつことができ、ストライキなどを防止する効果がある。
勉強会のビデオは、管理者向けの早朝勉強会を録画しておけば良いので、難しい編集もそれほど必要ない。
なお、会社全体の売り上げや成績が良かった場合には、特別手当として昼食時にアイスクリーム(Rp5,000程度)を出すと、ものすごく喜ばれるし、モチベーションも上がる。お金ではない特別手当を利用することも良い方法だ。
まとめ
社員にとって、会社で提供される食事が一番の楽しみだ。その楽しみを安全に、快適に過ごしてもらうために、様々な工夫が必要なのだ。「食べ物の恨みは恐ろしい」と言われるが、インドネシアでも人間の感情は変わらない。
食事の時間、ケータリング業者、メニューなども従業員とよく話し合って決めてほしい。押し付けではなく、従業員に参加させることで、不満が少なくなり、モチベーションもあげることができるのだ。会社側にとっては食事は大きな経費の一つだが、生産性をあげる大事な要素として捉えることだ。さらに昼休みを有効活用し、勉強会を実施し、従業員のモチベーションをアップさせ、生産性向上につなげることだ。
この記事を参考にして、ぜひ実行して成果につなげてほしい。